中国法律コラム15「専門研修を実施した労働者を引き止める方法について」広東盛唐法律事務所

2017/02/22

一.中国では専門研修を実施してもすぐに離職されてしまうケースが多い
中国の労働者は、日本の労働者と異なり、会社への帰属意識が薄く、転職によりキャリアアップを図ることが一般的であるため、中国の転職率は日本に比べて格段に高いと言えます。日本の企業が中国の労働者を日本に派遣して研修を受けさせるなど、コストをかけて育成訓練をしても、スキルアップした労働者がよりよい待遇の会社にすぐに転職してしまい、研修にかけたコストが無駄になってしまうケースが多くあります。今回は、国外研修などを実施してスキルアップした労働者を引
き止める方法について書きたいと思います。

二.研修実施前に契約を締結する
中国の労働法によりますと、会社がコストを負担して、従業員に専門的な研修を実施する場合、契約を締結し、服務期間(使用者が労働者に対し、特別な技術訓練等を行った場合に、一定期間労働者による契約解除を制限して使用者の下に拘束することを認めた期間をいう。)を約定することができます。労働者が契約書に違反して服務期間内に離職する場合、違約金の支払いを求めることができます。

なお、服務期間について、何年を超えてはいけないといった明確な規定はありませんが、会社が負担した費用に比して合理的な範囲を超えることはできません。

違約金については、会社が負担した費用を超えることはできず、かつ、服務期間の未履行部分に割り当てられるべき費用を超えることはできません。つまり、違約金の上限の計算式は次のようになります。

「違約金の上限=会社が負担した研修費用×服務期間履行月数/服務期間総月数」

例えば、会社が研修の実施のために負担した費用が10万元とすると、契約書に約定できる違約金の上限は10万元となります。この場合に、服務期間が5年(60ヶ月)であり、労働者が3年(36ヶ月)勤めた時点で離職したとすると、残りの服務期間は2年(24ヶ月)となりますので、違約金は10万元×24ヶ月/60ヶ月=4万元となります。

三.研修の費用について
労働者が研修契約に違反して早期に離職した場合に請求できる違約金は、会社が研修の実施のために負担した費用(パスポート、ビザ取得申請手続き費用、往復の航空券、研修受講費用、国外滞在費用、食費補助、生活補助、海外旅行保険など)の総額が上限となります。しかし、労働者を日本など国外に派遣して研修を実施する場合、多くの費用は国外で発生するものであり、争いとなった場合に、国外で生じた領収書などの証拠について、翻訳をしたり、公証や認証の手続きをしたりしなければならないという立証難の問題があります。したがって、研修契約において、かかる費用が具体的にいくらかを明定しておくべきです。これによって、違約金の計算を容易にし、かつ、立証難の問題を解決することができます。

四.まとめ
前述のとおり、中国の法律は、会社が費用を負担して専門的な研修を実施した場合、労働者と契約を締結することにより、労働者の離職を一定期間制限することを認めています。皆様の会社において、優秀な人材のスキルアップを目指すとともに、会社への定着率を向上させるために、専門的な研修を実施する場合には、研修契約を締結した労働者のみが研修を受けることができる方針とするよう提案します。これにより、コストをかけて専門的な研修を実施した労働者が早期に離職す
るケースを防止することができます。

参照法律
労働契約法 第22条(研修費用の賠償)
使用者は、労働者に特定の研修費用を提供し、これに専門技術訓練を受けさせる場合、当該労働者と契約を締結し、服務期間を約定することができる。

労働者は、服務期間の約定に違反した場合、約定に従い使用者に対して違約金を支払わなければならない。違約金の額は、使用者が提供した研修費用を超えてはならない。使用者が労働者に支払いを要求する違約金は、服務期間の未履行部分に割り当てられるべき訓練費用を超えてはならない。

大嶽 徳洋さん広東盛唐法律事務所
SHENG TANG LAW FIRM
法律顧問
大嶽 徳洋 Roy Odake
中国深圳市福田区福華一路一号
大中華国際交易広場15階西区
電話:(86)755-8328-3652
メール : odake@yamatolaw.com

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