中国法律コラム17 「東莞市内における工場移転について」広東盛唐法律事務所

2017/04/25

今回は、東莞市内における工場移転に関する労務問 題について、皆様と情報の共有をさせていただこうと 思います。

一、背景

東莞市に位置するA社は今年、東莞市内での移転を 計画しています。A社は移転の発表に際して、従業員が 経済補償金の支払いを求めてサボタージュを起こすの ではないかと懸念しています。

二、法律分析

1、関連法令

「企業組織形態変更過程における労使紛争の防止業 務の徹底に関する広東省人力資源及び社会保障庁の 意見」(粤人社規〔2013〕3号,以下「意見」という)

(三)労働契約の継続履行問題について

企業が市の行政区内で移転をし、従業員の通勤につ いて、市の交通機関を利用できる、又は企業が通勤手 当を支給する、もしくは無料の交通手段で送迎するな どの便利を提供することによって、従業員の生活に明ら かな影響を生じさせない場合、原労働契約は継続履行 されるものとする。

原労働契約が継続履行される場合、企業は経済補償 金を支払う必要はない。企業及び従業員は原労働契約 の約定に従い各々の義務を履行する。企業は従業員の 報酬待遇を随意に引き下げてはならず、従業員の当該 企業での勤続年数は継続して計算する。労使双方は労 働契約又はその他の書面により従業員の当該企業で の勤続年数を明記することができる。

2、移転先に同行する従業員について

前述の「意見」の規定によりますと、移転先に同行す る従業員について、原労働契約が継続履行されるた め、経済補償金を支払う義務はなく、当該従業員の勤 続年数は連続して計算されることになります。

3、移転先への同行を拒み退職を申し出た従業員について

前述の「意見」の規定及び当職の経験に照らします と、東莞市内で移転をする場合、次の各号に掲げる条 件の一を満たす場合、今回の移転は従業員の生活に明 らかな影響を生じさえるものではないとみなされます。 したがいまして、この場合には、従業員が移転を理由に 退職を申し出たとしても、経済補償金を支払う義務は 生じません。

•引き続き旧工場付近に居住する従業員に無料の交通 手段を提供する

•引き続き旧工場付近に居住する従業員に交通手当を 支給する

•引き続き旧工場付近に居住する従業員が東莞市の公共 の交通機関(バス、地下鉄など)を利用して通勤できる

三、サボタージュの対応策

1、今回の移転は東莞市内であり、法律上は経済補償金 の支払い義務は生じえませんが、実務上は、従業員が 移転を理由にサボタージュをし、経済補償金の支払い を求めてくる蓋然性が高いといえます。

2、サボタージュが生じる蓋然性を低減するため、移転ス キームの制定にあたっては、現地の社区管理部門、労働 部門などの政府行政機関の意見を聴取し、移転発表時 や労働組合など従業員代表との労使交渉時において は、政府行政機関の人員に現地に立会をしてもらうこと が望ましいでしょう。移転スキームの説明においては、移 転の必要性及び合理性、並びに従業員の賃金待遇を維 持すること、勤続年数は継続して計算されること、無料の 交通手段を提供すること又は交通手当を支給すること について盛り込むべきです。そして、会社上層部は、政府 部門の人員、労働組合委員、弁護士などの在席のもと、 従業員の意見を聴取し疑問に回答する機会を設け、従 業員の情緒安定に努めることが望ましいでしょう。

3、サボタージュが生じた場合、従業員に代表者を選定して対話をするように要求し、かつ、必要に応じて政府 行政部門の人員に仲介、調停をしてもらうことが望まし いでしょう。政府部門の人員の意見は、従業員にとって 会社内部の人員の意見よりも説得力があるといえます。 また、通知などの書面を掲示することなどによって、従 業員には正常に勤務する義務が有ることを強調し、職 場放棄をした従業員は、その時間帯の賃金を支給しな いこと、サボタージュを扇動した従業員は規則制度に 則り厳しく処罰すること、会社に生じた損害賠償請求を することなどを強調します。これらの手段を講じて、サボ タージュの早期解決を図ることができます。

四、まとめ

東莞市内の移転において、従業員の生活に明らかな 影響が生じない場合、経済補償金の支払い義務は生じ ませんが、実務においては、従業員がサボタージュに よって経済補償金の支払いを求めてくるケースが多く ございます。そのような事態に適切に対処するために、 事前に弁護士などの専門家や現地の政府部門に相談 の上で対応策を検討することが肝要であると考えます。

盛唐法律事務所

広東盛唐法律事務所

SHENG TANG LAW FIRM

法律顧問 大嶽 徳洋 Roy Odake

行政書士試験合格 東京商工会議所認定 ビジネス法務エキスパート

Tel: (86)755-8328-3652

E-mail: odake@yamatolaw.com

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