中国法律事情「中国の学生アルバイトと定年その3」高橋孝治

2018/04/09

前回まで一人一単位の原則から、学生バイトや副業が禁止されていることまでを説明しました。中国の定年も一人一単位の原則と思われる規制があります。

・働かせては「いけない」年齢
「関于企業職工”法定退休年齢“涵義的復函」では中国の定年年齢を男60歳、女50歳、女性幹部は55歳としています。この定年は日本のそれとは異なります。日本では法律上の定年は、その年齢以降に「年齢を理由に退職させてもいい年齢」ですが、中国の定年は「働かせてはいけない年齢」となっています。この「働かせてはいけない」というのも法律に明文の規定はありませんが、学説では一貫して定年は就労禁止年齢とする説が支持されており、労働関係法規もその考えを前提に条文が作成されています。

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かつて単位制度が施行されていた時代の中国では、定年に達すると実際には仕事をせずに定年前に勤めていた企業から給料をもらうという制度になっていました。この働かずしてもらえる給料が年金の役割を担っていたわけです(そのため社会保険としての年金制度が必要なく、現在の中国で社会保険の完備が遅れている原因とも言われています)。

ここで一人一単位の原則と合わせると以下のようになります。学生時代→学校が単位となり管理される。企業勤務時代→企業が単位となり管理される。定年以降→定年前に勤めていた企業が単位となり、働かずして給料をもらい管理される。このように、定年を働かせてはいけない年齢と捉えることも、一人一単位の原則の表れと説明できるのです。

このように改革開放以降、終わりを告げたはずの単位制度の流れを汲むような制度が現在の中国にもかなり残存しているわけです。特に労働法関係は日本にはなじみのない「単位」制度を経験しているため、制度の歴史を知らなければ「なぜこのような制度があるのか」、「日本と似たような条文があっても日本とは制度趣旨が異なる」という点を見誤るので注意しましょう。

ただ残念なことに、単位制度が終わりを告げた今もなぜ単位制度「的」な学生バイトの禁止や定年を「働かせてはいけない年齢」と捉える制度が残っているのかはよく分かっていません。

なお、「女性幹部」の定年は55歳ですが、「幹部」の定義が明らかにされていないので、女性を課長クラスにして、事実上55歳まで働いてもらうことが多いようです。さらに平均寿命が延びたことに伴い、男60歳、女50歳では定年が早いとのことで、やっと定年年齢を改定する動きが出てきました。近いうちにこの年齢は変更になるかもしれません。

高橋孝治

〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉
中国法研究家、北京和僑会「法律・労務・税務研究会」講師。中国法の研究を志し、都内社労士事務所を退職し渡中。中国政法大学博士課程修了・法学博士。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)。詳しくは「高橋孝治中国」でネットを検索!

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