中国法律コラム28「社会保険・住宅積立金未納のリスクについて」広東盛唐法律事務所

2018/04/23

近年、労働者の権利意識、使用者のコンプライアンスの重要度が増してきたことにより、社会保険及び住宅積立金の実施状況は益々改善されてきているのではないかと思います。しかし、製造業においては、社会保険及び住宅積立金の未納問題を抱えている企業も少なくなく、そのような企業は、将来的に、会社清算、移転、事業譲渡などを実施しようとした時に、この問題により労資紛争が勃発するリスクを抱えているといえます。今回は、社会保険及び住宅積立金の未納、過少納付に関するリスクを分析しました。

一、 未納、過少納付により生じうる法的責任
1-1 社会保険料について
社会保険法の定めによりますと、会社に社会保険料の未納又は過少納付のある場合、従業員の告発などにより行政機関から調査されたとき、次の3つの責任を負わなければならなくなるリスクがあります。

(1)追納
未納又は過少納付している社会保険料について、追納命令がなされる可能性があります。未納付の社会保険料には会社負担分と従業員個人負担分とがありますが、従業員負担分は個人が納付義務を果たすべきものであるため、会社が追納すべき範囲は会社負担分に限られるべきです。しかし、会社には源泉徴収をする義務があるため、会社が従業員負担分を立て替えなければならなくなる蓋然性が高いといえます。社会保険料追納の遡及期間について、現行の法律には明確な規定がなく、各地の行政機関の執行の強度にも差があるのが現状ですが、広東省においては、広州市の行政は無制限、その他の市の行政は2年を限度に遡及しているようです。

(2)滞納金
 0.05%/日の滞納金を徴されるリスクがあります。

(3)過料
使用者が期限どおりに是正をしない場合、行政罰として過料を科されるリスクがあります。過料の金額は使用者が悪意を持って法定義務を未履行としていたか否か、及び改善状況などに基づき決定されます。これについて、行政機関は一定の裁量権を有していますが、過料の金額は、未払金額の1倍以上3倍以下とされています。3つの責任のうち、社会保険料の追納及び滞納金は比較的に確定的な項目であるといえます。行政罰(過料)は、行政機関が是正命令をしたにもかかわらず、追納などの是正を拒んだ場合に科される蓋然性が高いものです。

1-2 住宅積立金について
社会保険法の定めによりますと、会社に社会保険料の未納又は過少納付のある場合、従業員の告発などにより行政機関から調査されたとき、次の3つの責任を負わなければならなくなるリスクがあります。

住宅積立金の未払又は過少払いをしている場合、次のようなリスクがあります。

(1)追納 
従業員は使用者が住宅積立金を満額積み立てていないと告発する権利を有しています。住宅積立金管理センターは事実を調査した後、使用者に対して期限を定めて積立をするよう命じることができます。当職らの経験によりますと、従業員が住宅積立金管理センターに告発をした場合、住宅積立金管理センターは会社に対して調査をすることになります。調査の結果、積立金の未払い、又は過少払いがあった場合、追納の是正命令がなされます。なお、住宅積立金管理センターが追納を命じた場合、従業員は個人負担分について、追納義務を負うことになります。しかし、会社は源泉徴収をする義務があるため、従業員負担分を立て替えなければならなくなる蓋然性が高いといます。

(2)是正命令
過去に未払いとなっている住宅金積立金について、追納が命じられるとともに、爾後、正しい基準に従い積立金を積み立てるようにとの是正命令も下されることになろうかと思います。

二、対応策について
社会保険・住宅積立金の未納、過少納付について多くの企業にとって時限爆弾となっているため、会社移転、事業譲渡、会社清算などをしようとしたときに、ストライキ、サボタージュなどのリスク、及び追納、滞納金、過料のリスクが存在しているといえます。したがいまして、事前に対応策を練っておくことが肝要であるといえます。

以上

盛唐法律事務所

 

 

 

 

 

広東盛唐法律事務所
SHENG TANG LAW FIRM
法律顧問
大嶽 徳洋 Roy Odake
行政書士試験合格
東京商工会議所認定
ビジネス法務エキスパート
Tel: (86)755-8328-3652
E-mail: odake@yamatolaw.com

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