中国法律事情「中国特許法の職務発明その1」高橋孝治

2018/05/08

今回は中国の専利法(日本語では「特許法」について説明しましょう。特に専利法の職務発明です。職務発明とは、会社の社員が会社の業務として行った発明をいいます。日本の特許法は、「発明を行った者が特許を受ける権利を有する」と規定しているため(日本の特許法第29条)、あらかじめ社員は会社と職務発明について、特許を受ける権利を委譲する契約を結んでおくことが多いようです。では、中国ではどうなのでしょう。

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・中国の職務発明は会社が権利者
専利法第6条第1項では以下のように規定しています。「当該単位の業務の執行あるいは主たる部分を単位の物質的・技術的条件を利用して完成した発明は職務発明とする。職務発明につき特許を申請する権利は当該単位に属する。申請し批准された後は、当該単位が特許権者となる」。本連載第17回(634号)でも説明しましたが、「単位」とは会社や学校など人間が所属する組織をいいます。以下、条文の引用以外で「単位」は会社と呼ぶことにします。

この条文にある通り、中国では原則として、職務発明の特許権を申請する権利は会社が持ち、申請して批准された後は、会社が正式な特許権者となるわけです。ところが専利法第6条第3項では「当該単位の物質的・技術的条件を利用して完成した発明で、単位と発明者や考案者が特許を申請する権利および特許権の帰属について契約を締結していた場合は、その契約に従うものとする」と規定しています。つまり、会社の業務として発明した場合を除き、会社の技術などを利用して完成した発明は、契約によって社員と会社のどちらが権利を持つこともできるということです。

また「単位の物質的・技術的条件」とは、当該会社の資金、設備、部品、原材料もしくは公開されていない技術資料などを指すとされています(専利法実施細則第12条)。中国での一般的な法解釈では、これら会社の資金や設備などの利用が発明の一部分のみであり、どんなに少なくても「単位の物質的・技術的条件」を利用したとされる、としています。次回は「単位の業務の執行」について説明しましょう。(続く)

高橋孝治

〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉
中国法研究家、北京和僑会「法律・労務・税務研究会」講師。中国法の研究を志し、都内社労士事務所を退職し渡中。中国政法大学博士課程修了・法学博士。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)。詳しくは「高橋孝治中国」でネットを検索!

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