目から鱗の中国法律事情 Vol.20「中国特許法の職務発明その2」

2018/06/05

 前号では、中国の職務発明の概要と「単位の物質的・技術的条件」について説明しました。今回は、「単位の業務の執行」と職務発明に対する褒賞について説明しましょう。

 

どのような場合が職務発明か

前回の続きになりますが、どのような場合が職務発明に該当するかについても規定があります。「会社の業務として」とは、①職務中に行った発明、②その会社が与えた本職以外の業務中の発明、③退職して会社を離れた、もしくは雇用・人事関係が終了してから一年以内に行った元の会社からの職務もしくは元の会社の業務に関係のある発明をいいます(専利法実施細則第12条)。さらに、同条では職務発明の際に勤務している会社は臨時的な会社も含むと明文で定めています。

 

・職務発明に対する褒賞

特許権を得た会社は、職務発明をした発明者や考案者に褒賞を与えなければならず、特許の実施後は、その普及と応用の範囲および得た経済効果に応じて、発明者もしくは考案者に合理的な報酬を支払わなければならないとしています(専利法第16条)。このように中国では、職務発明に対して必ず褒賞や報酬を与えなけ ればならない点に注意が必要です。つまり、職務発明は基本的に会社が権利を持ち、社員は特許権を得られないが、褒賞や報酬は得られるということを法律が保障しているといえます。

 

・職務発明を理論から見る

このような規定の源流は中国の計画経済期に見ることができます。1978年に公布・施行された「発明奨励条例」では、発明は全て国家に属するとされ(第9条)、その代わりに発明には褒賞が与えられることに なっていました(第6条・第7条)。つまり、計画経済期には国民全員が利益を亨受するという発想があったため、発明をしてもそれが 一律国家のものになっていました。しかし、それでは発明意欲などが減退するため発明者に褒賞が与えられるという構成を取ってい たのです。現在の中国の専利法もこの発想の流れを汲んでいるも のといえるでしょう。会社に特許権を認めやすくするということは、「会社全体が利益を享受しやすい」ということです。なお、誤解されることが多いようですが、1978年はまだ一部の経済特区以外は計画経済期で、中国全土が計画経済を放棄するのは1992年の南巡講話(経済発展をさらに進める政策)以降のことです。

 

 

高橋孝治〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉
中国法研究家、北京和僑会「法律・労務・税務研究会」講師。中国法の研究を志し、都内社労士事務所を退職し渡中。中国政法大学博士課程修了・法学博士。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)。詳しくは「高橋孝治中国」でネットを検索!

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