中国法律コラム38「準拠法と裁判管轄について」広東盛唐法律事務所

2019/03/20

最近、中国国内の日系企業の現地法人同士が締結する契約について、準拠法を日本法とし、紛争解決地を日本の裁判所にしたいという問い合わせを何度かいただきました。日系企業の現地法人同士の取引であるのだから、争いが生じた場合は、日本で解決したいという意図かと思います。現地法人には、法務担当者がおらず、実際にこのような問題に対応できる人員がいないため、本社側で対応したいという考えももっともかと思います。

今回のコラムでは、中国国内に設立された現地法人同士が締結する契約について、準拠法を日本法とすること、及び紛争解決地を日本の裁判所とできるのか?という問題について解説したいと思います。

 

 

1、法的分析

中国国内に設立された法人同士の契約においては、契約の主体、目的物の所在、引き渡しの地及び支払いの地すべてが中国大陸内になるケースがほとんどでしょう。

中国の民事訴訟法の定めによりますと、裁判管轄は、「契約の履行に密接な関係のある土地の裁判所」でなければなりません。つまり、中国の現地法人同士の取引において、日本法を準拠法、及び日本の裁判所を紛争解決地として契約に約定したとしても、これは、事実上実現不可能です。

なぜかといいますと、当事者の一方が、日本の裁判所に提訴して、勝訴判決を得たとしても、敗訴側が日本の裁判所の下した判決を履行しなければ、勝訴側は強制執行を申請しなければならなくなりますが、一般的に、中国の現地法人は日本に財産を有していないものと考えられますので、中国で強制執行を申請する必要があります。

しかし、中国と日本は裁判判決をお互いに承認・執行するという国際条約を結んでおりませんので、中国の裁判所は、日本の裁判所の下した判決を認めず、強制執行をすることはありません。

したがいまして、日本の裁判所で日本法をもって紛争を解決した場合、仮に日本の裁判所がこれを受理し、判決を下したとしても、中国で強制執行をすることができないため、絵に描いた餅になることでしょう。

つまり、そのような中国国内の現地法人同士の取引について、契約書に日本法を準拠法とすること、及び裁判管轄を日本の裁判所とすることを約定をしたとしても、結局は、中国の裁判所で中国法をもって解決するよりほかなくなるということです。

 

 

2、まとめ

中国の民事訴訟法では、渉外契約ではない場合(当事者や契約行為などがすべて中国国内である場合)、当然に中国法が適用されることになり、外国法を選択することはできないとされています。したがいまして、今回のようなケースにおいては、日本法などの他国の法律を準拠法として選択することはできず、中国法を準拠法とせざるをえません。

なお、中国の裁判所以外の紛争解決手段を選択したい場合には、仲裁機構を選定することができます。

仲裁は訴訟と比して、専門的知識を有する者を仲裁人に指定できる点、一審終審制であるためスピーディな解決が望める点、非公開である点、地方保護主義の影響が小さい点などでメリットがあります。

紛争解決方法を仲裁とする場合でも、海外の仲裁機構を選択した場合、国内の取引であれば(渉外取引ではない)、中国の裁判所が外国の仲裁機構の下した仲裁裁決を承認・執行してくれないリスクがあります。したがいまして、中国国内の仲裁機構を選択することが望ましいと考えます。

 

以上

 

 


大嶽徳洋

広東盛唐法律事務所
SHENG TANG LAW FIRM
法律顧問
大嶽 徳洋 Roy Odake
行政書士試験合格
東京商工会議所認定
ビジネス法務エキスパート
Tel: (86)755-8328-3652
E-mail: odake@yamatolaw.com

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