目から鱗の中国法律事情 Vol.30「日中の物権変動の時期」第1回

2019/04/10
買ったモノはいつから所有権を持てる?

今回は突然ですが、まずクイズからはじめましょう。お店でモノを買ったとき、買い手はそのモノの所有権をいつから持つでしょう。

① 買い手が「あれください」と言ったとき
② 「あれください」に対して、売り手が「かしこまりました」と言ったとき
③ お金を支払ったとき
④ 買い手がモノを受け取ったとき
⑤ お店を出たとき

正解は、原則として日本では②、中国では④です(日本の民法第176条、中国の物権法第23条)。

 

 

物権変動とその時期

「物」に対する権利(所有権も「物」に対する権利の一つです)に変更が生じることを「物権変動」と言います。モノを買うことは、所有権者が変更されることなので、「物権変動」の一種です。

日本の民法では「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」と規定しています(第176条)。つまり、日本での物権変動は、両者の意思が一致したときに既に終了しているのです。先のクイズの例で言えば、買い手が「買いたい」という意思を示して、売り手が「売るよ」という意思を示したときです。つまり、②のときに所有権が既に移転しています。

これに対し、中国の物権法では「動産に対する物権の設定及び移転は、交付のときから効力が生じる」と規定しています(第23条)。つまり、中国での物権変動は、実際にモノを引き渡したときに発生するのです。つまり、買い手がモノを受け取ったときの④が中国での正解です。

 

 

日本での引き渡し前のモノの法的状態

中国では、基本的にモノを渡したときに所有権が移転します。そのため、原則として実際に持っている人と所有権者が常に一致するため、外部から見て非常に分かりやすくなっています。これに対して、日本では売買に合意したけれども、まだ引き渡していない場合、「所有権は買い手が持っているが、実際には売り手が所持している」という状態になります。そのため、買い手は「なんであなたが私のモノを持っているのですか。返しなさい」と言うことも可能です。しかし、売り手は代金が支払われるまでは、既に買い手のモノになっていても引き渡すことを拒否することができます(これを同時履行の抗弁権と言います)。(続く)

 

 


高橋孝治〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国法研究を志し、都内社労士事務所を退職し渡中。中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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