中国法律事情「中国の裁判所の決定などによる物権変動 その1」高橋孝治

2019/06/12

 

前回、前々回と2回に亘って、「日中の物権変動(モノに対する権利の移転)の時期」について見てきました。そこでは「原則として」日本では、物権変動の時期は双方の意思が一致したとき、中国ではモノを実際に引き渡したときか不動産の場合、登記をしたときと説明しました。今回はその例外の一つ、裁判所の決定による物権変動を見ていきましょう。

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裁判所・仲裁・収征の例外

中国の物権法第28条には以下のように規定されています。「人民法院(裁判所)、仲裁委員会の法律文書もしくは人民政府の征収の決定などによって、物権の設立、変更、譲渡または消滅が起こったときは、その法律文書もしくは人民政府の征収の決定などのときから効果が生じる」。ここでいう「征収」とは、国家が公共の利益のために、所有者に補償をした上で公権力によって強制的に、集団もしくは私人の財産を国家の所有に移すことをいいます。

つまり、人民法院や仲裁委員会が判決や仲裁書を出したり、国家が征収を決定した場合には、その瞬間に物権変動が起こっている(所有権の場合だと、所有者が変わっている)ということになるのです。中国は、原則として登記時や引渡時に所有権が移転するとしており、基本的には実際にモノを持っている人や登記を備えている人が所有者になるので、この場合は例外に該当すると言うことです。つまり、人民法院の判決や征収が行われると、まだモノを引き渡していないのに(不動産の登記を移転していないのに)、既に他の人のモノになっているということです(所有権は既に他の人に移っているが、事実としてそのモノはまだ自分の手元にあるという状態)。

 

例外規定の趣旨

中国をはじめとする社会主義国家は、国家が誰が何を所有しているのかを管理する体制が基本にもなっています。しかし、その一方で国家の決定は絶対であるという側面も持ちます。そのため、国家が物権変動を決定したときには、その瞬間から効力が発生するということになるのです。

しかし、ここで一つ問題が発生します。中国では原則としてモノの引渡時(不動産は登記時)に物権変動が発生するので、条文上日本の二重譲渡(所有権は既に他の人に移っているが、事実としてそのモノはまだ自分の手元にあるという状態で、そのモノを第三者に譲渡や売却をすること)に関する条文が存在しないのです。では、中国では二重譲渡の場合にはどう対処するのか、次回はこの話をしましょう。

 

 

 

高橋孝治

〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉
中国法研究家、北京和僑会「法律・労務・税務研究会」講師。中国法の研究を志し、都内社労士事務所を退職し渡中。中国政法大学博士課程修了・法学博士。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)。詳しくは「高橋孝治中国」でネットを検索!

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