中国人事労務「業績悪化による整理解雇」インテリジェンス

2014/04/22

前回は「労働関係処理のポイント(5)」と称し、解雇の具体事例として「事業再編に伴う部門閉鎖」による契約解除について解説しました。今回は当シリーズの最終回として「業績悪化による整理解雇」についてご説明します。

■事例(業績悪化による整理解雇)

電子機器製造企業であるF社は、工場設立から10年を迎えた。立ち上げ当初から業績を順調に伸ばしてきたが、リーマンショック以降業績が悪化し、現在も低迷を続けている。会社の存続のためには、半年先までにスタッフとワーカー合わせて300名いる従業員を200名まで削減する必要があり、会社は整理解雇を検討。

■会社方針の確定

重要度は非常に高いものの、緊急対応を迫られる場面ではないため、まずは新規採用の抑制などによる自然減や契約期間満了による契約終了などでどの程度の人員を削減できるかのシミュレーションを行った上で会社方針を確定します。1.適用法規の確認大量の人員整理が必要な場面ですので業績悪化による整理解雇(労働契約法第41条(二)項)を中心に検討すべき場面ですが、従業員の同意が取れそうな場面では個別に協議一致による契約解除(労働契約法第36条)を進め、訴訟リスクの低減を図るという方法もあります。

※労働契約法第41条(要旨)

20名以上、あるいは20名未満であるが従業員総数の10%以上の人員削減が必要である場合で、以下の状況の一に該当する場合:(二)生産、経営が極めて困難になった場合

使用者は30日前までに工会、あるいは労働者全員に状況を説明し、工会、あるいは労働者の意見を聴取した後、人員削減方案を労働行政部門へ報告し、人員削減することができる。

<対象者選定時に優先的に残さなければならない人員>

(一)当該使用者と比較的長期の有固定期限契約を締結した者

(二)当該使用者と無固定期限契約を締結した者

(三)家庭内に他に就業者がおらず、扶養しなければならない高齢者あるいは未成年者がいる者

2.解雇可否とリスク検討(図1.を参照)

労働契約法第41条(二)項を用いる場合、解雇までに数多くのプロセスを踏まなければなりません。工会や従業員への説明と意見聴取はもとより、労働行政部門への報告が必要となります。法律では報告とされているものの、実際の場面では承認取得に近い感があるため、過去の財務諸表や決算書類などを用意するなどし、会社の生産・経営が極めて困難な状況にあることを客観的に証明しなければなりません。また、解雇制限(医療期間や女性三期にある従業員などに対する解雇禁止)や、対象者の人選に関する法律規定が存在することにも留意が必要です。
3.補償プランの確定
法定の経済補償金以外に+αの支払いを求められることも考えられるため、あらかじめその支払い可否および限度額を決定しておきます。
■解雇シナリオの策定と実行
整理解雇は会社からの一方的な契約解除通知であるため訴訟リスクは高まります。労働契約法第41条(二)項が規定するプロセスを踏みつつも、できる限り協議解除を目指し、協議解除に至らなかった場合にはリスクを覚悟の上で整理解雇を行うという流れが望ましいと考えます。基本的なシナリオが定まれば、これまで当シリーズで説明してきた流れに沿って解雇を実行、フォローしていきます。
■これまで計6回に渡って労働関係処理のポイントについてご案内してきました。弊社が会員企業からいただくご相談の内、約2割は解雇に関するものですが、採用した社員を途中で解雇しなければならないというのはやはり心苦しいものです。とはいえ、一旦会社としての方針を定めた以上はその方針をブラさず粛々と進めなければなりません。先送りすればするほど対応が難しくなることもまた事実です。過去に何代もの総経理から同一の不良社員に関するご相談を受け、いまだに処理に至っていないケースなどもありますが、何もアクションを起こそうとしない会社を他の社員が冷ややかな目で見る、という状況は危険です。また、明らかに適性がない社員を雇用責任という名目でそのままにしておくことは、他の社員に対する誤ったメッセージの発信となるだけでなく、実は社員本人のためにもならないことがあります。
企業トップは理想とする組織像を明確にし、それに対する強いメッセージを常に社員に示し続けることが問われています。

当該ケースにおける思考フレーム例

北尾直樹 インテリジェンス

 

北尾直樹 インテリジェンスアンカーコンサルティング深セン 総経理

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