尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.15

2019/11/13

会社の代表権

中国の企業と契約する場合には、誰に署名してもらい、その相手に署名する権限があるか否かは、どのように確認できるのでしょうか。また、契約に署名した人に代表権がなかった場合は、締結した契約は無効になってしまうのでしょうか。

(1)誰が会社を代表する権限を有するのか
 日本で会社を代表するのは代表取締役です。中国では、誰が会社を代表することができるのでしょうか。
中国の会社では、董事長、総経理、執行董事のうち、定款で定めた者が代表権を有します。
実際には、董事長が法定代表者であることが多いです。これは、改正前の会社法で董事長が会社を代表することとされていた経緯にもよります。
法定代表者が誰であるかは、「営業許可証」で確認することができます。法定代表者が署名しなければ、会社に効果が帰属しないのが原則です。そのため、事前に営業許可証を入手して、または「全国企業信用情報公示システム」で調べて、誰が会社の法定代表者なのか確認することが必要です。
また、法定代表者が変更している場合もありますので、最新の登記情報を確認することが重要です。

 (2)法定代表者以外の署名
 日本の取引でも、全ての契約に代表取締役が署名するわけではなく、権限を付与された役職者が署名することも多いと思います。この点は中国でも同じです。例えば、日常的な契約であれば、部長や課長の署名により契約することも多いです。
この場合には、「署名者に代表権限がないから契約の効力が発生していない」と主張されるリスクが生じます。このようなリスクを避けるためには、相手方企業の職務権限規程、授権書の提出を求める等、権限の確認が必要です。「社内審査手続の関係で授権書が必要でる」と言って提出してもらうのも1つの方法でしょう。

(3)表見代理について
 このように、署名者に代表権がなければ、契約は会社に帰属しないのが原則です。
しかし、取引の相手方が署名した人の権限を信頼した場合、一定の要件があれば契約は有効です。これが「表見代理」と呼ばれる制度です。日本にも、同様の制度があります。
例えば、会社の代表権がない人が、自分には代表権があると偽って契約を締結したとしましょう。相手方がその人に代表権があると信じ、そう信じる理由がある場合に、会社に契約を帰属させる制度です。
もっとも、「信じる理由」があったことを証明するのは容易ではありません。そのため、まずはしっかりと代表権、締結権限の有無を資料から確認することが重要となります。

*次回のテーマは「準拠法の選択」です。

shenxiu

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尹秀鍾 Yin Xiuzhong

代表弁護士、慶應義塾大学法学(商法)博士。西村あさひ法律事務所(東京本部)、君合律師事務所(北京本部)での執務経験を経て、2014年から深圳で開業、華南地域の外国系企業を中心に法務サービスを提供。主な業務領域は、外国企業の対中国投資、M&A、労働法務、事業の再編と撤退、民・商事訴訟及び仲裁、その他中国企業の対外国投資など。

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