目から鱗の中国法律事情 Vol.43

2020/05/06

中国の債権譲渡(契約の譲渡・債の移転) その4

 前回までで中国の債権譲渡(契約の譲渡)の方法について見てきました。今回はその補足をしていきましょう。


P26 Lawyer_739債権譲渡での債務者の承諾?

 前回、債権譲渡を行うには債権の譲渡人と譲受人で合意をして、譲渡人が債務者に債権譲渡があった旨を通知する必要があると述べました。中国ではこれだけです。しかし、日本では、譲渡人が債務者に通知をするか、債務者の承諾があれば債権譲渡は債務者に対しても成立するとしています(日本の民法第467条第1項)。前回も述べましたが、債権譲渡があった旨を債務者に通知するのは、債務者が誰に債務を支払えばいいのかを常に理解させておくためです。それならば、債務者に通知を出すという方法のみでなく、債務者が債権譲渡があった旨を理解して、承諾をすればそれでもいいはずです。

 しかし、中国では債権譲渡が債務者との関係でも成立するための要件として「債務者の承諾」を挙げていません。そのため、債務者の承諾があったとしても、中国では債権譲渡は債務者との関係では成立しないことになります(この点、学説もなにも補完していません)。

 制度の趣旨から言えば、「債務者の承諾」でも十分なはずですが、債権譲渡が債務者との関係で成立するためには常に「譲渡人から債務者への通知」を必要としているのが中国法ということになります。

 

債の移転?

 さて、今シリーズ第1回目では、中国では債権・債務という言い方は、債権が一方的に権利を要求するニュアンスを感じるため「債」という用語を使っていたと述べました。これに代表されるように、中国は債権と債務を常に表裏一体の関係と考えています。つまり、「債権譲渡」があれば、「債務譲渡」もあると考えます。債務の譲渡のことを日本語では「債務引受け」といい、中国語では「債務承諾(原文では「債務承胆」)」といいます。

 この点、日本と中国では非常に対照的で、日本では債務引受けは「学説上できる」と考えられてはいるものの、条文上規定がありません。しかし、中国では債務承諾の条文があります。これはやはり中国では債権と債務は表裏一体であり、債権譲渡の規定があるなら、債務承諾の規定も置くべきという発想から来ていると言えるでしょう。

 そして、中国では「債権譲渡」のみが取り上げられることはほとんどなく、「債の移転(中国語原文は「債的移転」)」という表現を用いて、債権譲渡と債務承諾双方を論じます。(続く)

 


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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