目から鱗の中国法律事情 Vol.45

2020/07/08

中国の全人代で民法が可決 その1

 中国の全国人民代表大会で5月28日に「民法」が可決されました。これはどういうことなのでしょう。今回は民法制定の意味を見ていきましょう。

 

P26 Lawyer_747中国にとっての民法の始まり

 1949年10月に中華人民共和国は成立宣言をしました。その後、新国家成立に伴い各法律を制定するための動きが始まりました。実際に、民法も1954年から起草作業が始まり、1956年には完成したとされています。さらに、1956年の党大会でも、民法を制定するとの表明がされていました。その後1962年に再度民法起草作業が始まり、1964年には2つ目の民法草案が完成しました。しかし、間もなく中国では各種政治運動が勃発し、結果として完成していた民法草案は日の目を見ることがありませんでした。

 なお、この時の民法草案は、社会主義国家として、ソビエト連邦の民法典が大きく参考にされていたとされています

 

改革開放政策以降の民法

 その後、改革開放政策が始まり、外資企業との取引のために「民法」の制定が必要とされました。しかし、社会主義国家では私的な取引は存在しないという前提があったため、「民法」を制定してよいのか、社会に対する経済規制を行う「経済法」を制定するのかで大きな議論が巻き起こりました。この結果、「民法」ではなく「経済契約法(中国語原文は「経済合同法」)」(1981年)、「渉外経済契約法(中国語原文は「渉外経済合同法」)」(1985年)、「技術契約法(中国語原文は「技術合同法」)」(1987年)が制定されました。

 そして、このように民法のうち、個別の単独法をそれぞれ制定するという方法が中国では根付いていきました。すなわち、日本では「民法」というと総則編、物権編、債権編、親族編、相続編の5つに分かれていますが、中国ではこれらを個別の単独法として公布・施行するという方法です。その結果、民法通則(1986年)、物権法(2007年)、担保法(1995年)、契約法(中国語原文は「合同法」)(1999年)、不法行為責任法(中国語原文は「侵権責任法」)(2009年)などの単行法規がそれぞれ制定され、これまで中国の民法「的」な内容を構成してきました。

 今回、「中国初の民法が制定された」と報道されていますが、これまで「民法」という名称の法律が存在しなかっただけで、中国に「民法と同様の内容の法律」がなかったわけではないのです。しかし、これらの民法を構成する単独法は、それぞれが相互に矛盾する部分があり、実務上も問題が生じていました。(続く)

 


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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