ECO特集~人と環境について考える~ Part 9

2018/10/10

プラスチック事業を手掛ける肇英實業有限公司代表の川副哲氏に聞いた、香港のリサイクル事情とその課題について

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1989年に肇英實業有限公司を設立し、様々な事業を立ち上げられたのち、2010年にトレース可能なプラスチック回収システムのエコ事業を開始した経緯について教えてください。

1989年に肇英實業有限公司(Cho Ei Limited)を創業して以来、プラスチック材料及び製品を取り扱っています。当社には主に2つの主軸事業があります。着色事業とコンパウンディング(配合)事業を行っているグループ会社の「日彩化工(中国)有限公司(Plastic World Limited)」と樹脂を用いた金型成形事業を行っている「精塑汽配科技有限公司(Fineplas)」です。当社はお陰様で今年で30周年を迎えることができました。

2010年位から日本のお客様からポストコンシュームド(一度消費された製品のスクラップ)でトレーサビリティの利く、そしてバージン材料と混ぜてお客様から要求される物性を持った環境に優しい材料を提供してほしいというお客様の要望がありました。そのため、複写機の部品に使用されているペーパートレイやカートリッジにご利用いただいている材料を2010年位から生産し始めました。環境に優しい材料を使用することでいわゆるグリーン調達、米国や欧州でリサイクル率に応じた奨励制度があります。お客様はそのような観点において、環境に優しい材料、つまりリサイクル率の高い材料を使いう必要性が高まってきました。これらの要望に応える形で我々は環境に優しい材料を生産するようになりました。

環境に優しい材料を生産し始める前、九州工業大学との共同開発で、合成樹脂強化剤として竹繊維コンパウンドを再利用した「グリーンプラスチック」プロジェクトを開始しました。2年間プロジェクトを続けていたのですが、共同開発の責任者の大学の先生がマレーシアへ転勤されてしまい、このプロジェクトは頓挫してしまいました。元々、竹繊維を共同開発しようと思った経緯はエコに優しい商品が欲しいというお客様からの要望、そして放竹林になっている竹をなんとかできないかと考えたのが理由です。昔はタケノコをきちんと採取していたのですが、中国本土から安価なタケノコが日本に入ってきて以来、日本のタケノコ産業はビジネスが成り立たなくなってしまいました。今は高齢者の方が増えてきて、タケノコを管理する人も少なくなり、竹が無造作に伸びてしまうことで地滑りを起こしたり、隣の畑に入ったりと竹が悪さをするのです。その当時は竹が年間1万トンくらい放置されていて、これらの竹を回収するために地方行政が多額のお金を投じていました。私は佐賀生まれの長崎育ちですが、この局面を打開できないかと考えた結果、先述したプロジェクトで竹を利用して廃プラと混ぜてエコに優しい商品開発を行い、地産地消できたらいいなというのが当初の理由でした。その時の一番の課題はいかに竹纖維を商業ベースで安価に生産するのかということなのですが、この技術は難しかったですね。

 

竹繊維の商業物をどのように活かそうとお考えだったのですか?

まず竹繊維には強度があります。プラスチックだけだと弱いのでプラスチックに強度を持たせるために通常はガラス繊維を混ぜます。ガラス繊維の代わりに竹繊維を入れたらどうかと。九州工業大学との共同開発でプロジェクトを開始したのですが、道のりは険しかったですね。今でもこの商品は世に生み出されていないので、相当難しい技術なのかなと思います。竹の活用方法を考えている方は多いですね。例えば、セルロースナノアセテートを竹から採取できるということで、下着の繊維の中に竹繊維を入れて抗菌効果がある製品もすでに市場にあります。竹の素晴らしい特性を活かした商品開発が少しずつ見えてきたのではないでしょうか。ただ、プラスチック産業に来るまでにはもう少し時間がかかりそうな気がします。

 

2010年に設立されたエコプラス(香港)有限公司(以下、エコプラス)の事業内容、御社製品とサービス内容、香港内または中国全土での実績や活動内容についてお聞かせください。

エコプラス事業を始める前は、バージン材料を着色、コンパウンドする事業をやっていましたし、現在も継続しています。

プラスチック樹脂を使っている成形屋さんでもやはり加工段階でスクラップが出てしまいます。このスクラップをできる限りゼロに近づけたらお客様に喜んで頂けるなと。産業廃棄物として処理をしていた材料を有価で引き取り、付加価値を付けてあげると喜ばれるかなと。

その中でも特にエンジニアプラスチック(以下、エンプラ)は1キロ当たり500~1000円くらいするのですが、エンプラのスクラップを上手に活用できないかなと。リサイクルするなとお客様エンドから言われてしまいます。このスクラップはいい材料なのに使わないんです。このエンプラをリサイクル業者が引き取りに来てくれるのですが、引取価格は500円で購入したエンプラの20~30円程度です。よく考えてみると儲からないので、私たちとしてはこの価格の真ん中位で双方が満足できる製品が作れないかなと考えました。エンプラのスクラップを引き取り、付加価値を上げて高値で販売する。使用してもらえる仕組みはできないか等々、成形メーカーからは現在よりも高い価格でスクラップを購入喜んで頂く、ユーザーには付加価値と高めてバージンよりはかなり安く購入して頂く仕組みを構築しています、色々を模索しています。

 

香港在住の人たちは、プラスチックに対するリサイクル意識または香港からごみを減らすためのエコ意識が日本人に比べて高いと思いますか?

エコ意識は非常に薄い気がします。このエコ問題が今、香港では非常に大きな社会問題になっています。当時、香港にはゴミ焼却場が4基あったのですが、ダイオキシンという有毒ガスが発生したため地域住民の反対を受けて1994年にすべて取り潰されました。それ以降、すべての固形廃棄物が埋め立てられるようになりましたが埋め立てする場所も最近はなくなっています。香港には多くの埋め立て地が存在しますが、その中でも最悪で有名なのが通称”JUNK BAY”と呼ばれる將軍澳(Tseung Kwan O)エリアです。埋め立て地の上に高層マンションを建設したのですが、ある時期から異臭がしたり、ハエも増えたということで近隣住民が騒いだ出来事がありました。

2、3年で埋め立てる場所はなくなってしまいます。ゴミ焼却場もない、埋め立て地も数年でなくなるという状況の中で、香港政府はどのように3R(リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle))をしていくか、エコパークにリサイクル業者を集めて、補助金をつけて固形廃棄物を減らそうと試みています。その固形廃棄物の中でも一つの大きなテーマがプラスチックです。

もう一つの大きな問題として昨年、中国政府は環境対策の一環として中国本土以外の固形廃棄物(金属スクラップや廃プラスチックなど)輸入規制を実施しました。ライセンスを持たない世界中の業者から集められた廃プラスチックが香港を一旦経由して中国へ入る裏のルート、そして香港から廃棄される廃プラスチックです。これらの廃プラスチックを中国へ輸入できなくなり、香港に廃棄物が堆積されるようになってきました。香港政府は重要問題として香港日本人商工会議所へ掛け合い、日本の技術を使って解決・支援してほしいという話が来ています。同所の環境委員会では、香港の固形廃棄物削減に対して支援できるかどうか議論している最中です。香港政府は日本のことをよく知っています。実際に日本へ視察し、ゴミ焼却場も上手に使っているし、地域住民からの反対もないので香港にも応用できるなと。香港政府は香港にゴミ焼却場を2基建設しようとしましたが、地域住民の反対で建設することはできませんでした。結局、それ以降、香港政府は及び腰でなかなか声を上げることができません。それで、日本で実施している「リデュース(Reduce)」でゴミ収集時に徴収しようという取り組みを今年秋頃から始める予定です。日本では御馴染みのゴミ分別を香港でもきちんとやりましょう、と小さな小冊子を作って香港市民へ訴えかけ始めたところです。

私は香港ほど分別がしやすい国はないと考えています。高層ビルが多い香港では、ビルの下にゴミ分別できる仕組みを作って、ヘルパーさんがいるご家庭が多いと思うので、ヘルパーさんがゴミ分別するところから始めてみても良いのではないでしょうか?ビル下にゴミを持ってきたらクーポンを配る仕組みを作れば、ヘルパーさんは喜んで分別してくれるのではないでしょうか。日本と同じように収集日を決めて置いてみても良いと思います。

 

香港政府が掲げている3Rで実現性の高いものは何でしょうか?

香港内で大切な事はリデゥース(Reduce)ですね。香港には廃スクラップを加工できる業者がないのでリユーズ(Reuse)は中々難しい。リサイクル(Recycle)も香港で製品を生産するよりもペレット化して、他国へ輸入して生産したほうが得策です。廃スクラップを加工してペレット化された材料は中国本土へ輸入することも可能です。しかしご存知の通り、香港は家賃や人件費が高いので、いかに限られたスペースでいかに自動化してやるか、課題も多いですが仕組みを作ることができると面白いビジネスになります。また「CEPA」と呼ばれる香港と中国本土間で締結している経済緊密化協定があるのですが、香港で生産したことを証明する書面があれば、中国への輸入関税がゼロになるメリットもあります。そのような点で、香港でものつくりをするというのは面白いと思います。来年度からは香港とASEAN諸国のFTA(自由貿易協定)が始まりますので、よりメリットが出てくるのではないでしょうか。香港で上手に生産できるようになれば、ASEAN諸国へ輸出する際、輸入関税が優遇されるのでビジネスの可能性はさらに広がっっていくと思います。

 

今、香港で一番廃棄されている固形廃棄物はなんでしょうか?

一日何千トンと出てくる食品残渣(食べ残し)です。一つのプロジェクトとして食品残渣をエネルギーへ変えようという動きはあるようです。希少金属が取れる廃棄物に関しては、エコパークの中にALBAという会社がWEEE(Waste Electrical and Electronic Equipment)のリサイクル工場を今年3月から稼働させました。

 

プラスチックの量を減らす方法はありますか?

何年も前から香港政府が取り組んでいるプラスチック袋購入制度が導入されたからエコバッグを持って買い物をするようになりました。これは一つの良い成功事例ではないでしょうか。その他にもプラスチック容器を減らすこと、大量のマイクロプラスチックを出さないことです。魚がマイクロプラスチックを食べて、これらの魚を私たち食べているという時代が来ています。だから石油由来から植物由来のプラスチックへ変えることによって、自然分解できる材料を使用していく必要があります。

 

香港がどのような解決策を見出していくのか、今後の香港のビジョンについて教えてください。

香港政府では様々な施策を発表していますが、今までのスピードでは間に合わないので、かなりのスピードで推し進めていく必要があるのではないでしょうか。現在、トライアルで小さな無人島に小さな焼却場を作ってゴミをそこへ運ぶということも決まりましたが、船に積載できる量も限られていますし、少し現実的ではない気がします。但し実際問題では、埋め立てできる土地もなくなってきているので、香港市民へ訴えるための施策の一つとしてはよいのではないのでしょうか。日本政府としても日本の環境ビジネスを手掛けている日本企業と共に香港のゴミ問題を解決しようと取り組んでいるところです。

 

 


Cho Ei Limited(肇英實業有限公司)
住所:Unit 606A, 6/F., Nanyang Plaza, 57 Hung To Rd., Kwun Tong
電話:(852)2951-1800
ウェブ:www.choei.com.hk、www.plasticworld.com.hk

 

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