【CoCo壱番屋】海外進出ヒストリー

2023/12/13

インドからイギリス、そして日本に辿り着き、独自に進化したジャパニーズカレー。そんな日本のカレーを世界に広めたパイオニア「カレーハウスCoCo壱番屋」(以下、ココイチ)の香港全店を統括する川崎さんに、カレーの歴史やココイチの海外事業展開について伺った。

壱番屋香港有限公司・副総経理
川崎 貴明さん
Mr.Kawasaki2010年4月入社。日本の店舗で経験を積んだ後、堪能な中国語力を買われて同年12月に香港へ。上海駐在を挟みつつ在港歴は10年以上。域内全8店舗の統括のほか、現地スタッフと協議を重ねながらメニュー考案にも力を注ぐ。好きなココイチメニューは、納豆とチーズをトッピングしたオクラ豆腐カレー。

 

白米との相性が不可欠な日本のカレー

─今や世界で認知されているジャパニーズカレーですが、定義はあるんですか?
日本のカレーとほかの国のカレーの違いを一言でいうと、「ルウ」でしょう。スパイスのみをミックスしたカレー粉とは違い、ルウには小麦粉や油脂が含まれているのでとろみがつくんです。さらさらとしたタイカレーのようにスープを飲みながらごはんを食べるのとは違い、日本のカレーは白ごはんと混ぜ合わせながら食べますよね。我々の主食である米といかにマッチするかという点が重要なので、日本のカレーはあのとろみがないと成り立ちません。

──決め手はルウなんですね。ではカレーはどのように日本で広まったのでしょう?
カレーはインドからイギリスへ、そして日本へと辿り着きました。そもそもイギリスでカレーが一般的に食されるようになったのは、インドから輸入したスパイスを調合したカレー粉をあるメーカーが作り、それに小麦粉でとろみをつけたものが広まったからです。
その後このイギリス式カレーが日本に入り、上流階級の人たちに親しまれるようになりました。これが大衆まで広がったのは明治ごろと言われています。この時代、世界と戦うためには洋食だという世の中の流れに乗って西洋料理店が次々と誕生したのですが、そこでカレーも提供されるようになりました。さらにそれまで輸入に頼っていたカレー粉を国内メーカーが手ごろな価格で販売するようになると、日本流に進化しながら一気に国民食となりました。きのこクリームオムカレー(スプーン)

カレー1本で名古屋から世界へ

──そんな日本のカレーを世界へと広めたココイチの軌跡を教えてください。
今から45年前、1978年にココイチは名古屋近郊で開業しました。創業者夫婦はもともと喫茶店を経営していたんですが、そこで提供していた手作りカレーがとても好評で、それならばカレー専門店を作ろう!ということで誕生したそうです。
ちなみに「CoCo壱番屋」という名前は、「カレーを食べるならココが一番や!」という思いから付けられました。

──店名はシャレから来ているんですか(笑)。そこからあっという間に全国展開、さらには海外出店と続きますよね。
1998年に500店鋪、2004年には1,000店舗を達成しました。海外拠点第1号となるハワイでの開店は1994年のことです。そこから中国・上海、台湾、韓国、タイと続き、2010年には香港1号店をオープンしました。その後も世界各国で出店を続け、今から3年前、インドに初進出しました。

今はなき1号店の壁には「カレーならココ一番や!」の文字が見える

今はなき1号店の壁には「カレーならココ一番や!」の文字が見える

世界的成功とは本場インドを制覇してこそ!

──インドに出店されたと聞いた時は驚きました。
日本の最大手自動車メーカーさんは、最初に車社会を築いたアメリカに進出し成功を収めましたよね。そのサクセスストーリーを聞いた当時の社長が、ココイチの世界的成功とは、カレー発祥の国であるインドで成し得てこそだ!とひらめいたそうです。
そこでまずは2018年、イギリス・ロンドンにオープンしました。ロンドンはインド系の人が多く住んでいることもあり、カレーのレベルがとても高いんです。先ほどお話した通り、日本のカレーはインド→イギリス→日本という道のりを辿っているのですが、ココイチはそのルートを逆から攻めたんですね。そして機が熟した2020年、念願のインド進出が実現しました。

──本場での反応はいかがですか?
簡単な市場でないことは間違いありません。インドは未だ日本食自体の理解も曖昧で、現地の日本食店では寿司と一緒に、キムチも中華もタイ料理もメニューに並んでいるような状態です。しかもインド人からするとカレーというのは複数のスパイスを混ぜて煮込んだ料理という意味なので、これがカレーだと提供しても違和感を持つ人もいるようです。とはいえ、来日時に日本のカレーを食した経験のある方が増えてきていることなどもあり、ココイチのカレーも徐々に日本食のひとつとして認知されつつあります。
香港にもインドの方は多いですが、よく来店されますよ。ある店舗には毎週必ず来てくれるインド人の常連さんもいるほど、一度食べてもらえれば本場の方にも美味しいと感じていただけると自信を持っています。

海外店舗でしか出会えないココイチカレーも

──海外店舗のカレーも日本の味と同じですか?
宗教的に豚肉を使えない国もあるので日本向け製品とは分けて生産していますが、香港を含め海外店鋪のカレーも全て日本の自社工場で作っています。ただメニューは少し違い、日本の一般的な店舗では食べられないものもあります。カキフライカレー(レストラン)

──海外で人気のメニューは何ですか?
香港を含め海外で断トツの人気を誇るのは、カツカレーですね。ロンドンではジャパニーズカレー=カツカレーと捉えられているくらい人気が高いんです。また基本的に海外店でしか提供していないオムカレーも好評です。これは中国事業を立ち上げる際、女性も意識した店舗展開をしようというところから始まりました。内装を明るい雰囲気にして、華やかなカレーを提供することになり、オムレツをのせたこのカレーが生まれたんです。これが各国でヒットし、今や海外店舗の定番メニューとなりました。ロースカツカレーやさい

香港はドリンクへの熱量が高い!?

──香港ならではの特徴はあるんですか?
辛さが苦手な人が多いようで、ほかの国に比べてマイルドを注文される方が多いです。また香港の飲食店は食事にドリンクが付いてくることが割と一般的なので、ドリンクのセット率が非常に高いんです。その中でもアイスティーを頼まれる方が多いんですが、特にミルクティーへのこだわりはとても強いんですよね…。

──香港人はエバミルク入りの港式奶茶が大好きですもんね。
当初は一般的なアイスティーを提供していたんですが、紅茶が美味しくないと何年も続けてクレームを頂戴し、「こんなドリンクを出すならカレーも食べに来ない!」などと言われることもあり…。ついに根負けして香港式のミルクティーに変更したんです。そうするとパタっとクレームは来なくなりました。香港の人はこんなにミルクティーへのこだわりが強いのかと勉強になりましたよ。

何度食べても飽きない「普通」へのこだわり

──最後に、ココイチのカレーへのこだわりを教えてください!
我々の最大の商売敵は、家で出てくる「お母さんのカレー」です。あれには勝てない。だからこそ、何度食べても飽きない家庭的な味をコンセプトにしています。
加えて、ごはんの量や辛さ、トッピングなどのバリエーションの多さもココイチのポリシーです。トッピングにはカツなど王道のものから、ココイチが提案するまではあまりなかったチーズや納豆など変わり種まで、あらゆる種類を用意しています。このバリエーションの豊かさには、飲食経験のなかった創業者がお客さんからの意見を真摯に受け止め、できる限りその要望を盛り込んできたという経緯があります。でもそれをやり続けたおかげで、ほかには真似できないココイチのオリジナリティ溢れる業態が完成したと言えますね!

CURRY HOUSE CoCo壱番屋
coco尖沙咀店: Shop 302, 3/F, Silvercord, 30 Canton Rd., TST
ほか7店舗
www.ichibanya.com.hk

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