香港在住日本人主婦が綴るリレーミニエッセイ Vol.162

2020/10/07

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リアルもサイバースペースも!迷宮都市・香港

 こんにちは。香港が舞台となる作品を一通り読んできて思うのは、香港がもつ複雑さが作家にはとても魅力的らしいということ。もともと香港が好きだから物語の舞台に選んだのか、それとも香港の複雑さがテーマに合っていたから選んだのかは、書き手によって違うかもしれません。今回は後者、香港のカオス感に魅かれて物語の舞台に選んだと思われる2作をご紹介します。

 

香港で起きた事件の謎を追うサイバーミステリ
森 博嗣『χ(カイ)の悲劇』
 「香港のトラムで起きた密室殺人」というあらすじで手にとったものの、読み始めてがっかり!物語は近未来のようで、リアルな香港描写は皆無…(残念!)。でもさすがは漫画やドラマにもなった人気シリーズ。キャラ立ちした登場人物と独特の世界観で、前作が未読でも楽しめます。物語は、香港で働く優秀なプログラマの島田文子のもとに、かつて起きた飛行機爆破事件を調べる男が訪ねてくるところから始まり、その男がトラム内で毒殺されて急展開、主人公はトラムの殺人と飛行機爆破事件の両方の謎を追うことに…。主人公がチームを率いて、最高機密データを盗む場面は、サイバーとは言えまるでアクションシーン。しだいに紐解かれる過去の人間関係や、シリーズの要ともいうべき究極の天才・真賀田四季の存在など、「第1作から読もうかな」と思わせてくれます

 

生き残るのは一人だけ 元官僚の「負け犬」が国家機密の強奪に挑む
長浦 京『アンダードッグス』
 中国返還直前の1997年春節の香港、厳重に保管されていた国家機密が国外へ運び出される。イタリア人大富豪のマッシモは、機密強奪の実行部隊を組織するが、裏金づくりの責任を負わされた元官僚の主人公・古葉をはじめ、メンバーの共通点は「負け犬」であること。中・英・米・露の情報機関が暗躍し、内通者がいるのは明白。実戦経験もない主人公は、持ち前の記憶力と観察眼で、血で血を洗う裏切りの連鎖を切り抜けていく。物語は1997年の古葉と、2018年の古葉の義理の娘の両方によって語られ、二人の絆には少しホロリとさせられます。香港描写も二重マル。主人公たちのアジトは、上海街の1階は豆腐店という雑居ビル。強奪のクライマックスは、西營盤から佐敦へ続く西区海底隧道。アクションシーンは大迫力なので、映像化するなら古葉は唐沢寿明、香港警察の雷はアーロン・クオック、豆腐屋の主人はエリック・ツァンがいいかな~と妄想が膨らみます

 

 

「香港という街は、どの一面を取り上げても複雑だ。その印象を一言で表現すれば、混沌だろう。混沌のラビリンスなのだ。」『χ(カイ)の悲劇』 
香港の景色に欠かせないものといえばこのトラムのはずなのに、舞台はまさかの近未来!やられました。事件はこのトラムの中で起きてほしかった!

香港の景色に欠かせないものといえばこのトラムのはずなのに、舞台はまさかの近未来!やられました。事件はこのトラムの中で起きてほしかった!

 

「俺の背中を押しているのは決意じゃない。とことん追い詰められたものだけが持つ、くだらないほど単純で馬鹿げた狂気だ。」『アンダードッグス』
西營盤(サイインプン)から佐敦(ジョーダン)へ通じる西区海底隧道は、1997年4月に開通。物語にあるような強奪計画でボロボロになったとしたら、2カ月で元に戻すのは大変…。

西營盤(サイインプン)から佐敦(ジョーダン)へ通じる西区海底隧道は、1997年4月に開通。物語にあるような強奪計画でボロボロになったとしたら、2カ月で元に戻すのは大変…。

 

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KOKURIKOKURI(コクリ)のプロフィール

夫の異動のため、この10年で引越しは4回。書斎を持つ夢を捨て、現在の読書は電子書籍が中心。荷造りも面倒なので、ミニマリストになるべく修行中。

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