オールド香港を訪ねて【通花鐵閘】

2023/08/16

今年2月発行「觀塘特集(※)」の制作中に茶果嶺を歩いた。400年という長い歴史のあるこの一角には、駆け足で発展を急ぐ香港という金融都市を他人事のように俯瞰する、特別な時間軸が存在しているように感じられた。九龍湾をさらに南下し藍田に近い海側の小さなトタン造りの一角が、今回の話の舞台である。3

もともと花崗岩が取れたこの一帯では、採石場や工場などが建てられ、その出稼ぎ労働者のために宿ができ、商店ができ、食堂ができた。このせまい路地に足を踏み入れると、かわいらしい鉄の扉、通花鐵閘が所々に見えてくる。50~60年代に流行した、職人による手作りの趣深い扉だ。商店の名が刻まれ、店によって模様の異なる扉を一枚、一枚と見比べながら歩を進めていくのもいいだろう。店の中からは、店主が大音量でテレビを観たり、ラジオを聴く音、皿を洗う音、住民同士でおしゃべりに興じたり笑い合ったりする声が聞こえてくる。
そんな住民の生活の一部である通花鐵閘は、以前はいわゆる鉄格子のようなただの柵だったようだ。プライバシーの確保が難しいことや防犯上の問題から、遮光性や通気、デザイン性などを兼ね備える通花鐵閘が愛されるようになった。また、外側からは分かりにくいが、太陽光が隙間から差し込み、内側の地面に美しい模様を描くのも、この扉の特徴である。しかし、これらを生業とする職人の数も現在では少なくなり、また、店舗空間の省略のために通花鐵閘を使う店を見つけることも難しくなっている。54 朝、小鳥が鳴く音とともにこの通花鐵閘を開け、日暮れとともに門を閉め今日という一日に別れを告げる。鉄筋コンクリートの摩天楼だけでなく、まだまだ知らない素朴でオールドな一面が隠されているのが香港の面白さと言えるだろう。

※WEB版より「觀塘特集」をご覧ください。

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