富士山に魅せられて…香港人経営者が届ける【日本体験】

2023/11/15

ここに富士山の美しさに魅せられ、その麓でビジネスを始めた男がいる。2020年から始まったプロジェクトFUUUN(浮雲)は、ただのキャンピングカーレンタル業ではなく、移動式の文化体験として、新たなビジネスモデルを提示している。その創業者こそが香港出身のデザイナー、Joe Jun Liao(以下、Jun)氏。香港人をはじめ日本好きな外国人から愛される同プロジェクトの全容とコンセプトについて紐解いていこう。b4-FUUUN-All-01

ハーバード出身のデザイナーがこだわったもの
19歳の時に留学して以来、生活の拠点はずっとアメリカだったJun氏。UCLAやハーバードで学んだエリートの彼は、LAの大手IT会社でデザイナー・エンジニアとして働いていた。
都市設計のソフトウェア開発というビッグプロジェクトに対峙する日々の中で、もっとリアルに人々と関わることのできるビジネスを模索していたところ、上質な睡眠に特化したカプセルホテル「SLEEEP」を香港でオープンさせたのが2016年だ。
私たちの生活に欠かせない睡眠だが、さまざまな要因から上質な睡眠を取れない現代人は多い。SLEEEPではハイクオリティの枕やリネンをつかった寝具などを完備し、ミニマリズムを貫いている。20220720-IMG_3043 そしてもう一つ、彼が思い描いていた夢、それが別事業であるFUUUN(浮雲)であり、「ZENx建築xモビリティ」をテーマにしたキャンピングカーの製作およびレンタル業。自身も「神からのギフト」と呼び、愛してやまない富士山を同プロジェクトの舞台にした。_Campfire 2023i._017

焚火を囲んだ時にする会話や人との絆
アメリカ留学時代から友人たちと足繁くキャンプに行き、釣った魚をそのまま焼いて食べワイルドなひとときを楽しんだJun氏。キャンプという、より自然に近い環境の中に身を置き、友人と協力しながら料理をしたり、焚火を囲んで普段は話さないような会話をする。「キャンプのプロセスの中で人との絆を深めることができ、またキャンプを終え帰宅すると自宅や都会の便利さを改めて実感することができるんです。このような体験を、日本の美の象徴である富士山と掛け合わせて、始めたのがFUUUNです」。FUUUN-M-02

フルフラットのシンプルで上質な車内
キッチンがあり、ベッドがあり、ダイニングテーブルがあるアメリカ式のキャンピングカーと違い、彼らが扱うのはもはやキャンピングカーと表現することがふさわしくないほど、簡素でありながら様々なコンセプトが溢れている。b5-FUUUN-L-interior ひとつは禅の思想だ。京都建仁寺両足院の住職により、禅をはじめとする東洋思想に基づき、3つの「U」、つまり不二Undefined(一つの定義に収まらない)、不執着 Unattached(所有というこだわりから離れる)、不或 Unlimited(あらゆる枠を超えてどこへでも)が定義づけられた。play-02 そして、茶道を学んだ経験を持ち、デザイナーでもあるJun氏は茶室専門の大工と共に車内をデザイン。「日本家屋の居間は、ひとつの空間の中で、眠ることも、ご飯を食べることも、お茶を飲むこともできる。私たちがこだわったのは、シンプルでフラットな空間です。動く茶室を創りたい、それが初めの構想でした」と彼は話す。FUUUN-S-06最後に、5G WiFiを完備したモビリティ環境。ハイエンドBluetoothスピーカーやプロジェクターが搭載され、旅先での生活を自由に快適にする工夫が施されている。また、ルーフに設置されたソーラー充電システムは、ガソリンの使用量を抑え環境にも配慮されているのだ。2020年の創業以降、富士山のダイナミックな自然を庭のように堪能でき、また日本の文化を感じられる移動式の体験として、欧米人やインド人、香港人などから注目を集め出している同プロジェクト。Jun氏によると、車のサイズにバリエーションを増やすこと、富士山だけでなくさらに多くのキャンプサイトへ展開することなども構想中だという。日本を愛する外国人の目線で、日本の美しさを伝える彼らの動向が楽しみだ。

Joe Jun Liao 廖醇祖
Jun 2香港生まれ。カルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)芸術学部・デザインメディアアート学科卒業、ハーバード大学デザイン大学院建築修士課程修了。2016年より、香港でテクノロジーベンチャー「SLEEEP」を立ち上げ、上質な眠りと多拠点生活を支援するカプセルホテルを経営する。20年より静岡県富士宮市にて「FUUUN(浮雲)」を立ち上げ、現在に至る。
雲云株式会社
https://fuuun.no/

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