香港在住日本人主婦が綴るリレーミニエッセイ Vol.155

2020/06/10


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ふり幅大きすぎ?香港ビジネスワールド

 こんにちは、KOKURIです。COVID-19のパンデミックで、最近は医療と経済危機のニュースばかり。でも香港の街ではマスクや消毒液が洋服屋で売られたり、レストランがテイクアウトを始めたり、みなさんたくましくビジネスしています。というわけで、今回は香港ビジネスの本を読んでみました。1冊は王道のビジネス成功譚、もう1冊は違法スレスレの日陰の道ながら、とことん陽気なアングラビジネスについての本です。

 

華商のビジネス魂が香港でジャパンブランドに革命を起こす
中野嘉子+王向華『同じ釜の飯 ― ナショナル炊飯器は人口680万の香港でなぜ800万台売れたか』
 「日本のモノを中国人にどう売るか?」という問いに、「中国人の感性をフルに生かした商品を作り、販売を中国人に一手に任せ、現地のリズムで売る」という戦略で答えたナショナル・パナソニックの半世紀にわたる物語。松下幸之助が契約書なしの握手だけで香港総代理店を任せたという、信興グループ会長の蒙民偉のサクセス・ストーリーでもある。海外の代理店は商品の選定を仲介の貿易商に任せることが多い中、蒙は現場へ足を運び、デザインや機能にあれこれ注文を付ける。日本人社員も、蒙の市場を見る目の確かさに奮起して、炊飯器や冷蔵庫、ラジオ、テレビなどを香港、中国本土、そして世界で通用する製品に作り上げていく。著者は蒙の中にある華商の力についてこう語る。「明日は何が起こるかわからないという不安。しかし、そこでしりごみをせず、逆に不安をバネにして、大胆に出る。そして、時代の流れをいち早く読み、幅広く、粘り強く手を打つ。」パンデミックで世界経済が混迷する今読むと、特別な感動がある一冊です。

 

あなたはまだ本当のチョンキンマンションを知らない?!
小川さやか『チョンキンマンションのボスは知っている ― アングラ経済の人類学』
 本書はチョンキンマンション(重慶大厦)をたまり場にするタンザニア人たちのインフォーマルなビジネスがテーマ。香港-タンザニア間の中古車ビジネスの開拓者であり、自称「チョンキンマンションのボス」のカラマという男性を中心に、正統派のビジネススキルとは無縁ながら、SNSを駆使した現代的スタイルの、緩くてしぶといビジネスが紹介される。仲間うちでビジネスチャンスを争う一方、同国人が香港で亡くなるという緊急事態には、仲間からカンパを集めて遺体を本国まで送り返すなど、頼りになる組合活動まであり、彼らの人間関係は柔軟で豊か。人は状況次第で良い方にも悪い方にも転ぶものなので、誰も信用できない。だからこそ、今、自分を助けられる人を探し、もし今自分が人を助けられるなら助ける。カラマたちの生き方を見ていると、日本人は一貫性や普遍性にこだわりすぎて、自分で自分を窮屈にしているのかもと思えてくる。目から鱗を落としたいときにピッタリの本です。

 

 

「『永遠の敵はいないし、永遠の味方もいないんですわ。』つまり、臨機応変であれ。これは、世界中でビジネスを展開する広東人の信条だという。常識や周りの声に流されず、ものさしは自分自身。」『同じ釜の飯』 
香港島に掲げられた企業の大看板。そのなかでも「Panasonic」はひときわ目立つ。日本人観光客や香港在住日本人にとって、日本の信用の大きさを感じさせてくれる、ちょっとしたシンボルでもある。

香港島に掲げられた企業の大看板。そのなかでも「Panasonic」はひときわ目立つ。日本人観光客や香港在住日本人にとって、日本の信用の大きさを感じさせてくれる、ちょっとしたシンボルでもある。

 

「私の師匠たちは『うまく騙すだけでなく、うまく騙されてあげるのが仲間のあいだで稼ぐうえでは肝心だ』『お前の騙し方は、バランスが悪い』など商売の鉄則を指南し、…『騙し騙されながら助け合う』社会的世界を創出する方途をさまざまな方法で教えてくれた。」『チョンキンマンションのボスは知っている』
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チョンキンマンションの2階に、本書の著者とカラマたちのたまり場であるパキスタン料理のレストラン「ビスミッラ」がある。席にはお茶を飲んでおしゃべりする常連客と思しき人々がチラホラ。残念ながらこの日はカラマさんには会えませんでした。

チョンキンマンションの2階に、本書の著者とカラマたちのたまり場であるパキスタン料理のレストラン「ビスミッラ」がある。席にはお茶を飲んでおしゃべりする常連客と思しき人々がチラホラ。残念ながらこの日はカラマさんには会えませんでした。

 

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KOKURIKOKURI(コクリ)のプロフィール

夫の異動のため、この10年で引越しは4回。書斎を持つ夢を捨て、現在の読書は電子書籍が中心。荷造りも面倒なので、ミニマリストになるべく修行中。

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