香港在住日本人主婦が綴るリレーミニエッセイ Vol.159

2020/08/19

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香港の闇を駆け抜けろ!ハードボイルド香港

 こんにちは。私が初めて香港を意識したのは1997年の大陸返還の時期。マスコミの報道やファッション雑誌の特集よりインパクトがあったのは、なんといっても現代の魔窟と呼ばれた「九龍城」です。93年に取り壊され、97年頃はよく書店に九龍城の写真集が並んでいたので、「香港=九龍城があるところ」と刷り込まれてしまいました。実際の香港は治安もよく、便利で住みやすい街ですが、今回はどこかにあるらしい香港の闇社会を描いた作品をご紹介します。

 

黒い欲望に囚われた男たちが落ちた闇の底
馳 星周『ダーク・ムーン』
 本作を読み始めた時に馳 星周さんが直木賞を受賞!がぜん読む気が増しました。しかし、さすがハードボイルドの暗黒系…。登場人物全員悪党。誰にも共感できないまま、物語は破滅へと爆走します。ストーリーも描写もR指定レベルなのでご注意を。
 7月の大陸返還を控えた1997年の春節直前。香港黒社会を牛耳る李耀明の手下・富永は行方不明になった娘を探すようカナダのヴァンクーヴァーへ差し向けられる。不穏な匂いに満ちたチャイナタウンで、富永は悪徳警官の呉達龍、エリート捜査官・ハリィ加藤と出会い、三つ巴の戦いを繰り広げる。頻発する強奪事件の犯人と行方不明の娘を追ううちに、呉達龍に裏仕事を命じる下院議員候補の鄭奎と、富永のボス・李耀明、ハリィ加藤の父親で実業家の加藤明がかつて盟友であり、いわくつきの絆で結ばれていたことが明らかに…。根強い人種差別に歪められた移民社会に生きる男たちの憎悪と絶望がリアルに迫ってきます。

 

口は悪いが繊細な青年探偵がたどり着く中国の痛みとは
ドン・ウィンズロウ『仏陀の鏡への道』
 『ストリート・キッズ』の探偵ニール・ケアリーのシリーズ第2作(全5作)。ニールの軽口と、親代わりの探偵グレアムとの軽妙なやり取りは本作でも相変わらず。ハードボイルドといえば主人公は中年男が定番ですが、青臭く切ないニールの姿から「ソフトボイルド」と呼ばれることもある本シリーズ。私も20年前にハマって読んだ作品でもあります。
 1970年代後半、鶏糞から強力な成長促進エキスを抽出する研究を成功させた科学者ペンドルトン博士は、製品化を目前にして、謎めいた中国人美女リ・ランと失踪。ニールは彼らを連れ戻す仕事を引き受けるが、リ・ランに翻弄され、あと一歩のところで失敗。二人を追ってサンフランシスコから香港へ来たものの、九龍城の地下で監禁されてしまう。九龍城の描写といい、スターフェリーからヴィクトリアピークを望む場面といい、短いながらも香港は色濃く描かれて楽しませてくれます。九龍城から救出されたニールは、リ・ランたちを探してさらに中国本土へ旅立つのですが、そこで権力奪取をめぐる陰謀と、彼女の壮絶な過去を知ることになります。

 

 

「くそ喰らえ。臆病で卑劣なやつが最後まで生き延びる。それがこの世界の掟だ。」『ダーク・ムーン』 
香港では1月1日のニューイヤーと、旧正月(春節)に美しい花火を見ることができる。元警官の富永はこの美しい春節の花火を見ることなく、ヴァンクーヴァーに旅立った。行きがけの駄賃に上海街で男を鉄パイプで殴り倒した後で…。

香港では1月1日のニューイヤーと、旧正月(春節)に美しい花火を見ることができる。元警官の富永はこの美しい春節の花火を見ることなく、ヴァンクーヴァーに旅立った。行きがけの駄賃に上海街で男を鉄パイプで殴り倒した後で…。

 

「人生はまさに、経験の喜びに満ちあふれた不思議で美しいカーニバルだ。」『仏陀の鏡への道』
黄大仙廟の春節の風景。多くの人が集まって、線香とお供え物で祈りを捧げていました。物語の中でニールはリ・ランに導かれ、黄大仙の建物の地下に下り、下水管を通って九龍城の地下へ連れていかれる。まさか本当に地下でつながっていたりはしないですよね?!

黄大仙廟の春節の風景。多くの人が集まって、線香とお供え物で祈りを捧げていました。物語の中でニールはリ・ランに導かれ、黄大仙の建物の地下に下り、下水管を通って九龍城の地下へ連れていかれる。まさか本当に地下でつながっていたりはしないですよね?!

 

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KOKURIKOKURI(コクリ)のプロフィール

夫の異動のため、この10年で引越しは4回。書斎を持つ夢を捨て、現在の読書は電子書籍が中心。荷造りも面倒なので、ミニマリストになるべく修行中。

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