2分で読める武士道 第16回

2021/09/22

2分で読める武士道

 

世界中で注目されている日本人特有の性格や行動の数々。
それらの由来は武士道精神にあった。
しかし、肝心の日本人にその武士道精神が浸透していないのが日本の現状である。

 

筆者が外国生活を通して感じた日本人の違和感を「武士道」や「葉隠」などの武士道関連文献をもとに紐解いていく。

 

 

 

 第16回 他人に物を申すときの6つの心得

 

 職場でも家庭でもいざという時には誰もが声をあげなければならない。しかし、そうは言ってもいざ声をあげようとすると、ここぞとばかりに理性が働き、気が引けて、結局だんまりを決め込む(決め込まされる)というのが人間の悲しい性(さが)と言えよう。「これは言うべきか否か」という理性が働いてしまうのは、本能の赴くままに物事を言おうとするからであり、適切な言葉と場面をあらかじめ吟味し、物を申す準備を整えたうえで断固たる覚悟を持って声をあげることができれば、相手が親分であろうと親父であろうと必ず聞き入れてもらえるものだ…ということが武士道では教えられている。

 

1.ひけらかさない、謙虚な態度で
姿の修行は絶えず鏡を見て直すのがよい。(中略)賢さを顔に出すのは人々に相手にされない。どっしりと落ち着いた確固たるところがなくては振舞、姿はよろしくない。礼儀正しく、渋みがあって、様子が静かなのがよい。(聞書第一 p.183)

2.人目を避けた場所を選ぶ
主人に諫言(かんげん)するにはいろいろのやり方があるだろう。志のこもった諫言は傍の者に知られないようにするものだ。(聞書第一 p.187)

3.ピンチの時こそ積極的に意見を
曲者は頼もしい者、頼もしい者は曲者である。長年の経験から確信がある。頼もしい、というのは万事うまくいっている時は入ってこない。人が落ち目になり困ったときに門をくぐり入ってきて頼りになることをしてくれる。(聞書第一 p.211)

4.十あることも一言で
物を言わず、言わなくてはいけないことは十言を一言で済ませるようにと心がけた。(聞書第一 p.197)

5.命を懸けて物申す
一命を捨てて申し上げたならば、お聞きになり分別なさるものである。中途半端に申し上げるから、お気に逆らい、言い出している半ばで挫かれ、引き下がる者ばかりである。(聞書第一 p.215)

6.理屈よりも覚悟があるかどうか
その時、綱茂公の御前に数馬がまかり出て「右の者どもはお助けなされますように」と申し上げた。(中略)道理がないのに助けるようにと申したのは不届きであるとのことをお叱りになられ、数馬は引き下がったが、またまかり出て「右の者どもは何とぞお助けになされますように」と申し上げたので、先ほどのように又々お叱りになられたので、引き下がった。またまかり出てこのように七度まで申すことになったうちに「助ける頃合いであるのだろう」とたちまちにお考え直され、お助けになられた。(聞書第一 p.216)

 

 武士の時代とは異なり、なかなか一命を懸けて物申します! というのは私たちには難しいが、今は手紙、電話、メール、LINEなど様々なコミュニケーションツールが利用できるので、大事な話があるときは相手と案件に応じてより効果的な手段と時間帯を選択してから臨むといいだろう。

 ただ何を言うにしても自信と覚悟を持っていなければならないというのは昔も今も変わらない大事なコミュニケーション能力の一つである。引用:講談社学術文庫「葉隠(上)」


profile筆者プロフィール

宮坂 龍一(みやさか りゅういち)
東京都出身。暁星高校、筑波大学体育学群卒業。
香港の会社、人事、芸能、恋愛事情にうるさい。

 

Pocket
LINEで送る