2分で読める武士道　第30回「貧困をもって誇りとした武士道」

2022/12/21

2分で読める武士道
世界中で注目されている日本人特有の性格や行動の数々。
それらの由来は武士道精神にあった。
しかし、肝心の日本人にその武士道精神が浸透していないのが日本の現状である。

筆者が外国生活を通して感じた日本人の違和感を「武士道」や「葉隠」などの武士道関連文献をもとに紐解いていく。

　第30回　貧困をもって誇りとした武士道　

「武士の徳である名誉心は、利益を得て恥辱をこうむるよりは、むしろ損失をえらぶ」というヴェンティディウスのせりふがあるが、武士道は非経済的であって、貧困をもって誇りとした。ドン・キホーテは、金銀や領地よりも、錆びた槍、やせた馬を誇りとしたのである。

年中生（K2）となった娘は先日初めて幼稚園主催の課外活動なるものを体験した。入園して以来、この1年半はコロナの影響でいろいろな幼稚園イベントが中止になっていたので本人にとっては人生で初めての校外学習となった。今回の活動テーマはビーチスポーツ。といってもカレンダーはすでに12月に入っており日中でも気温が20℃前後と冬の到来を感じさせる今日この頃。そもそも冬にビーチというのは、夏にスキー場に行くようなもので、レジャーを目的とした利用の仕方としては確実に間違っている。また時期外れのビーチで思い浮かぶ人といえばアントニオ猪木やとんねるず、あとは船越英一郎といった男気が溢れている人ばかりで、かれらがなぜ冬のビーチの画が似合うのかは皆さんも察しの通りだろう。そういう意味では幼稚園もかなり思い切った選択をしたわけである。

武士の子どもは、まったく経済を無視するように養育されてきた。経済のことを口にすることは悪趣味だとされ、貨幣の価値を知らないことは、よい教育を受けたしるしだとされた。

今回のような親子参加型の校外活動では普段娘の口からしか聞かないようなクラスメートや彼らの親御さんに実際に会うことができるので、いまだに野次馬精神旺盛な私はこのようなイベントを密かに楽しみにしている。一方で今回は妻が仕事のため不参加、さらに現在の娘のクラスでは私は唯一の日本人ということもあり、父親として、日本人としての威厳を周囲に示すにはこれ以上ないシチュエーションであった。どんな相手でも初対面では第一印象が大切なので、香港柔道館創設者の故岩見館長より生前に直伝してもらった「とりあえずハロー！と言え」を試してみるこ
とにした。この作戦はいたってシンプルで、度胸と声のデカさ以外は何の技術も必要とせず、とりあえず目の合った人に積極的に「ハロー！」と挨拶をするだけである。威勢の良い日本人の「ハロー！」にどう反応するかで相手の人となりを垣間見ることができる。初対面の一言目のインパクトは特に肝心なのだ。

武士道において、節約が教えられたのは事実であるが、これも経済上の理由に基づくものではなくて、自分の欲望をおさえる克己の訓練のためであった。

親は自分の子どもが毎日幼稚園でどんなことを学んでいるのか、どんな態度なのか、誰と仲が良いのかということが全く分からない。たまに本人に幼稚園の様子を聞いてみても、いつも「楽しい」の一言で終わる。とりわけインターナショナルスクールは自由な気風で知られているので毎日がおままごとみたいな活動で終わっていないかと心配になることもある。
しかし、今回初めての親子活動で、娘が先生やクラスメートとやり取りをしている様子を直に見て、普段家では見られない姿に思いがけず感動してしまった。多くの子どもたちが思いやり、協力、助け合い、励ましあいといった献身の大切さを理解していて、かれらの心の成長、成熟度は想像以上のものであった。
武士の時代、子どもの教育には知識よりも知恵の成長を重視していたように、娘の幼稚園でも識字や計算などよりも情操教育に力を入れているのが感じ取れた。本来、子どものいいところはお金や地位、名誉といったものに目もくれず、本当に素晴らしいものに心を動かされ、心の通った仲間たちと成長していく素直な心を持っていることであったはずである。それが最近では、小さいころからお金や仕事の知識を教え込まれ、頭は良いが心の豊かさに乏しく、仕事も趣味も友達も損得勘定で選ぶような若者が増えているように見える。私自身も周りの子どもたちがいろんな習い事をしている姿に焦りを感じて、家では遊びよりも活字や数字の勉強を娘に無理強いさせたこともあった。しかし振り返ってみれば、私の両親は決して私に勉強を教えてくれたことも強要してきたこともなく、自由に心の向くままに行動をさせてくれた。
今自分が親になってみて初めて子どもに勉強を強要しないこと、自由を与えることがいかに難しいことかを肌で感じている。