花樣語言Vol.127 萬聖節 or 哈囉喂

2017/10/23

615花樣語言Vol.127 香港はかつて、アジアでほとんど唯一の、本格的なハロウィンが見られるところでした。発祥地は蘭桂坊。新年のカウントダウンとクリスマスイブは大混雑で「人頭湧湧」、加えてハロウィンの仮装の様子は「扮鬼扮馬」、毎年、異口同音にこの四字熟語で報道されます。
 『ケロロ軍曹』の7年間にわたる放送でハロウィンがテーマなのは、アリサ・サザンクロスというオカルティックなキャラが登場する第133話(2006年)と、同じく第338話(2010年)。133話では夏美がハロウィンについて、しどろもどろに説明します。「たしかイギリスのほうの…、アメリカだっけ?収穫祭で、ケルトのお祭りで…、日本のお盆みたいなもの、怪物や魔女のコスプレをして…、お菓子をもらってまわるの」。そして338話で、また同じような説明があります。それが、『妖怪ウォッチ』(2014年~)では、何の説明もなく当たり前のようにケータたちは仮装してハロウィンに出かけるのです。気が付けば、いつのまにか日本にも根を下ろしていたハロウィン。
 東京ディズニーランドが仕掛けたとか、SNSが広めたとか、日本のコスプレ文化が発展したとか、いろいろ言ってますが、かつてバレンタインデーもはじめはこんな感じでした。1973年の『ど根性ガエル』では、ひろしがチョコレートは女が男にあげるものとは知らずに京子ちゃんにあげようとして恥をかいたり、ヨシコ先生がバレンタインデーと知らずにチョコをあげて誤解されたりと、今では考えられないような騒動で盛り上がっています。バレンタインのチョコとクリスマスケーキは製菓会社が広めたとされますが、クリスマスケーキは恐ろしいほど日本人の心をとらえていて、香港でも毎年クリスマスイブにはクリスマス仕様のケーキを探し奔走する日本人の姿があります。
 『ケロロ軍曹』の広東語版では、夏美の言う「お盆」が「中元節」となっています。先祖供養、死人礼賛(?)系の行事は香港では清明節と重陽節がメインで、中元節=盂蘭節(盂蘭盆会)は主に福建系の潮州人社会が主導します。中元は道教が起源、一方の盂蘭盆は仏教、けれどもインド由来の原始仏教ではなくて、中国で独自にアレンジされたもの。これが日本に伝わったのがお盆です。日本では中元が盂蘭盆と完全には一体化されず、中元は「お中元」となり、死者ではなく生きている人に贈り物をあげる行事になっています。収穫をもたらすご祖先の大地に感謝、ではなく、収入をもたらすお得意先に感謝。伝統行事は様々にアレンジされてこそ、新たな地に根付き、支持を得ます。一般に広く好まれる言葉に語源不明のものが多いのと同様、起源がよくわからなくなったお祭も、これすなわち大衆の支持が厚いお祭り、であります。
 クリスマスも、もしアメリカでサンタクロースを得なかったら、キリストの誕生だけだったなら、日本であんなに街中キラキラする行事にはならなかったでしょう。サンタクロースの起源はオランダ人がアメリカに伝えた聖人ニコラウスですが、ほとんどのプロテスタントには聖人崇拝という概念がないので聖人の要素が抜け落ちたのです。「Halloween」には「Hallow」(聖人)が入っていても聖人とは無関係。キリスト教の行事ではありません。「Trick or Treat」(いかにもアングロサクソン好みの頭韻法であり、また、アイルランドやウェールズの詩に多い子音韻を彷彿させます)、これもアメリカの製菓会社の宣伝で広まったとされます。「Treat」には「ごちそう」とか「もてなし、ふるまい」という意味はあっても本来「お菓子」という意味はありません。いたずらされたくなかったらお菓子をよこせ、というのはまぎれもなくテロ行為通告による脅迫。お中元も、くれないと便宜をはかってやらないぞ、という暗黙の強迫だったりして。クリスマスもハロウィンも、バレンタインもお中元も、はびこるのは商業主義、神様仏様より五穀豊穣、…っていうか、商売繁盛。
 『ケロロ軍曹』の夏美の家には宇宙人と恐怖の大王のほか、お観世(みよ)という幽霊が住んでいて、第353話で成仏を試みます。この「成仏」の訳が、「升天」(昇天)。たしかに日本の中国語辞典でも「成仏」は「升天」です。かの有名な『菊と刀』の中で、ルース・ベネディクトはこう書いています。「彼ら(日本人)は、…どんな人間でも、死んだらブッダに成る、というのだ。…他の仏教の国で、そんな事を言う所はない」。「成仏」が日本独自のアレンジだということがわかります。「昇天」は本来キリスト教のアイテムですが、正確には「キリストの昇天」のみを表すため、一般人が天に召されることを日本のプロテスタントでは「召天」としています。これは日本語式漢語で、語順が逆。中華圏では「天を召す」という意味になり、…っていうか、意味不明、日本国内でもほとんど普及していません。「召天」もまた戦後に作られたおびただしい数の、同音の漢字による日本式書きかえなのです。日本語で「召」が「昇」と同音になるこの偶然も神のおぼし召し?日本語圏外では、人は「成仏」せず、「召天」もしないのです。

大沢ぴかぴ

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