花樣語言 Vol.169<バッファローのバッファローは⋯>

2019/07/08

American_bison_k5680-1東京が2度目のオリンピックなら、大阪は2度目の万博。1970年の大阪万博はすさまじかった。ゲートが開くと、目当てのパビリオン目指して大群が一斉に全力で走り出す。これをバッファロー・ダッシュと呼んだ。その先にそびえていたのは大阪万博のシンボル、太陽の塔。設計者の岡本太郎は近鉄バファローズの「猛牛マーク」もデザインした。

近鉄バッファローズ、と言っていた人が多かったが、近鉄バファローズである。現在この名前を引き継ぐオリックス・バファローズにも「ッ」はない。あってもなくても英語の発音としては問題ないが(英語話者にはバッファローもバファローも、スパゲッティもスパゲティーも、同じに聞こえる)、球団名の公募の結果では「バッファローズ」だったそうだ。それが、「長すぎる」という理由で「バファロー」になった。近鉄バファロー(短すぎないか?)。千葉茂監督の愛称の「猛牛」に由来する。そして監督の辞任後に「近鉄バファローズ」になった。「これからは監督ひとりが猛牛なのではなく選手全員が猛牛になる」という理屈が付いた。かつて野茂投手もこの猛牛の一員だった。

「What is the difference between pumpkins and squash?」という記事がイギリスの新聞『タイムズ』にあった。アメリカ人ならパンプキン(オレンジ色で丸いカボチャ)とスクワッシュ(それ以外のカボチャ)の区別は明確なので、こういう疑問は浮かばないだろう。パンプキンの複数形が「pumpkins」でスクワッシュが「squash」なのが面白い。英語には「fish」や「sheep」のように単複同形の語が若干ある。そしてアメリカ大陸産の物には「squash、squashes」のように、どちらも可、というのが結構ある。バッファローの複数も「buffalo、buffaloes」どちらもあり。だから「近鉄バファロー」は、「バファローズ」にするまでもなく、すでに複数だった、とも言えるのだ。

似たような境遇のチームがセ・リーグにもある。広島東洋カープは当初「カープス」だったが、鯉は複数形も「carp」だと指摘されて、あわてて「カープ」に直した。が、「Carps」でも大丈夫。スポーツのチーム名なのだから問題ない。改める必要はなかった。トロント・ブルージェイズ傘下のマイナーリーグチームがバッファロー市にあって、バッファロー・バイソンズ(Bisons)という。単複同形の「bison」に、しっかり「-s」が付いている「。fishes」なども、種類を表す場合など特定の条件のもとでは可能だ。形態論という、チョムスキーの生成文法理論によってゴミ箱に放り込まれた言語学の一分野だが、その奥は深い。つづりもまた、ややこしく多様だ「。バファローズ(」Buffaloes)を当初、Buffalos、としそうになって、あわてて「e」を挿入した…かどうかは知らないが「、buffalos」という形もありである「。hero(」英雄)の複数形は「heroes」だが、アメリカのサブマリン・サンドイッチの「ヒーロー」の複数は「heros」のほうが普通だ。

以上のようなことを踏まえて、前々回の、Buffalo buffalo Buffalo buffalo buffalo buffalo Buffalo buffalo「.バッファローのバッファローが脅すバッファローのバッファローは、バッファローのバッファローを脅す」を分析してみよう。こういう文がまがりなりにも成り立つのは、あくまでこれが英語だから。ほかのヨーロッパの言語だったらこうは行かない。まず、大文字の「Buffalo」は地名である。よって「Buffalo buffalo」は「バッファロー市の水牛」。これが都合3回出てくる。同名の別の場所でも構わない。で、要点は、これらの水牛が単複同形の複数であること。なぜわかるかって?それは、2つある動詞の「buffalo」(脅す、威圧する、面食らわす)の語尾が3人称単数現在形「-(e)s」になってないからだ。それに冠詞の「a」もない。フランス語なら複数でも必ず冠詞が必要だが、英語には複数形の語に付く不定冠詞、つまり「a」の複数形というのはない。ゼロ形態となる。また、英語は関係代名詞を省略できる。そしてカンマも打ってないのは、読む人をわざと迷わせてやろうという悪意がこめられているからにほかならない。「Buffalo buffalo(名詞A),that Buffalo buffalo(名詞B)buffalo(動詞B),buffalo(動詞A)Buffalo buffalo(名詞C)」。真ん中の関係節「that~」の中の水牛ども(名詞B)が脅す(動詞B)その対象は、文頭の水牛ども(名詞A)である。そして、そいつら(名詞A)が更に、関係節を飛び越えて文末の、別の水牛ども(名詞C)を脅す(動詞A)、という構造になっている。この説明だけで理解してくれた方には感謝します。

アメリカのスポーツ記事の動詞に注目しよう。「The Los Angeles Angels are~」のように動詞も複数形だ。不可算名詞のチーム名の場合には単数形もある。「The Trenton Thunderis~(」ヤンキース傘下のマイナーチーム)。イギリスでは「The Basingstoke Buffalois~(」アイスホッケーチーム)。ちなみに「Los Ángeles」は「the angels(」天使)の意味のスペイン語。英語は「the」も単複同形だが、スペイン語の定冠詞「el(男性)、la(女性)」にはそれぞれ複数形「los、las」がある。大谷選手のいるロサンゼルス・エンゼルスは都市名とチーム名が同じという珍しい球団だ。今、香港の空港でこれを書いている。見上げると「DREAM come true」と書いた看板がある「。-s」の付け忘れと思われるだろうか。「a dream comes true」か「dreams come true」が正しい、と。だがこの「come」は過去分詞で、「dream」を後ろから修飾している。「夢が現実になる」ではなく「現実になった夢」という意味の慣用句だ。文法の間違いではない。ドリカムのアルバム『DO YOU DREAMS COME TRUE?』の訳は「ドリしてます?」なのだそうだ。広島カープの「神ってる」にならうなら「、ドリってる?」。

大沢ぴかぴ(比卡比)

Pocket
LINEで送る