エッセーの瀬!Vol.124「WHATEVER GET YOU THRU THE NIGHT」

2022/07/20

essay (2)

~在中邦人の感賞的後日談~
音楽、文藝、料理、絵画…世の中のありとあらゆる藝術を、市井の目線から解いてゆく…
気鋭のライター4人が送る痛快リレーエッセイ

 

WHATEVER GET YOU THRU THE NIGHT

日本語の〈悲喜交々〉〈喜怒哀楽〉。生きていると、日々常々、感情は入れ替わり、何かを考え感じ、そこからもう一段深く、考え、感じる。感情。この感情をどう出したらよいものか。

喜び。ああ、この人が、と思い、ずっと一緒にいたくて、一緒にいた中での、2人で、3人で見いだした数々のこと。
怒り。日々を過ごす中で、ちっちゃな、でも、ここだけは譲れないという気持ちからの、小さな、大きな、いさかい。
哀しみ。歳を重ねるにつれて、近しい人たちが此岸から彼岸へと栖を変え、それを見送ることが増えてきて。
楽しさ。楽しみ。楽。学生たちとの対話、お散歩でのささやかな発見、そして、力の抜き加減が分かってきてからの自分。

日々のさまざまな感情の動き、どう出したらよいものか。時々、こうやって文章を書いていても、自分に近しい人たちを相手に、あれこれと話しても、独りで自分自身に話しかけても。それでも、何か物足りなさを感じたら。

小学生の頃から、嫌なこと、つらいときには、本と音楽に逃げ込んでいた。小説世界に自分も入り込んだらこっちのもの。現実の世界よりも、そっちのほうが、安心できた。自分の知らないことがたくさん書かれていた。そして、そこから、こういうときはどうすればいいのかを、学んできた、いや、今でも、学んでいる。

音楽。本が〈目で知り、想像すること〉に対し、音楽は〈耳で聴き、感じること〉だ。自分ではどうにもしようがなく、手懐けられない感情に、いつでも寄り添ってくれた音楽。喜びに胸が張り裂けそうなとき、音楽は嬉しさ120%のリズムで後押しをしてくれた。怒りが収まらないとき、音楽は一緒になって怒りを外に出してくれた。哀しいとき、音楽はその哀しさを受け止めてくれ、包んでくれた。日々のなんてことない発見をしたとき、音楽はそれをなんてことなくない、とびっきりのspecialな出来事に変えてくれる。

自分で、どう出したらよいものか。〈うまく〉出す必要なんかない。寄り添ってもらえばいい。何に?自分の心が結びつきそうな音楽と。

John Lennon。ジョン・レノン。main photo

ビートルズ時代も、もちろん、素敵だった。あんなにも世界を熱狂させ(実際には遅れて生まれてきたから本物は見ていないが)、イギリスの曇り空同様、常にもやもやを抱え、最後はビルの屋上で、悲痛な声で歌っていた、ビートルズ時代のジョン。

その後、ヨーコと一緒にいたジョンは、さらに素敵だった。彼は、自分の中の〈喜怒哀楽〉を次々と出している。いや、出せるようになったのか。まるで、何かから解放されたかのように。彼は、変化をも恐れていない。むしろ、その変化に向き合いながら、いろいろなスタイルで、出している。

ヨーコに対する愛の喜びを、甘く優しい声で歌い上げている。世の中の理不尽な事柄に、腹の底からの叫びで歌い上げている。失うことの哀しみを、それでも失いたくないと、涙を含めて歌い上げている。家族3人での楽しい日々を、夏の海辺を思わせるリズムに乗せて歌い上げている。

陳腐かもしれないが、凶弾に倒れるその寸前まで、ジョンの中にはいつでも〈喜怒哀楽〉があり、ジョンはそれを真摯に受け止め、出し続けていたのではないか。

そう考えると、自身の〈喜怒哀楽〉も、ジョンの歌を聴けば、寄り添ってもらえ、だからこそ、自分も乗り切っていけるだろう。毎日を、乗り切っていける。そう、思えてやまない。
sub photoHey, John said in “Whatever gets you through the night” It’s alright! So, just believe yourself, no matter what happened, or, right or wrong, doesn’t matter. Trust me, you’ll get over it. ‘Coz you have a great power, maybe you still haven’t noticed yet. I know, bet you!!

 


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じゅん

PPWでおなじみの(ここでは)ライター。5足(母・妻・日本語教師・ライター・女)になったわらじを履きこなし、なんでもかんでも「なんとかなるさー」に加え、引き続き「年甲斐もなく老いて益々盛ん❤」で乗り切ります!広州生活もそろそろ13年目突入、主食のビールを飲みながら(休肝日無し)、時々インチキ中国語を駆使して東奔西走。のんきな果報者とはあてくしのことさ、いぇ~い!

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