起源は銀貨!?東アジアの「圓」、世界のドル

2016/02/01

元と圓と円とドル

お金2昨年11月から発行されている新100元札を見かけるようになってきた。この新札についてのある言い掛かりが話題になった。紙面に印刷されている「壹佰圆」の”圆“(繁体字は”圓“、以後繁体字を使用)だが、この漢字を使うのは誤りなのではないかというのだ。そう主張する人々の意見はこうだ。中国人民銀行法では中国の通貨である人民幣の単位は「元」、補助通貨の単位は「角」「分」であるとはっきり記されている。また日常の表記で使われるのも元。圓の由来が銀圓であることはわかるが、新しい紙幣でわざわざ法律に記載のない漢字を使う必要があるのか?……というものだ。
はたして「圓」を使うのは誤りなのか?漢字の国中国、こだわるのは当然だ。現代漢語詞典や他の権威ある参考書によれば、元と圓は共に同じ貨幣単位を指し、どちらが規定の漢字であるかは示されていない。慣例としてこの二つの字は共に使用が認められており、紙幣ではこれまで一貫して圓が印刷されてきたし、日常では元が使われてきた。これまで紙幣で元が使われたことは一度もない。新しい100元札でもこの慣例が踏襲されたというだけで、誤りとは言い切れない。さらに考慮すべきは、中国人民銀行法は言語の規準を定める法ではないということ。ただ単に元が通貨単位であると説明しているだけにすぎない。中華圏の台湾紙幣や香港紙幣でも圓が使われている。
中国語では圓と元の発音は同じ。漢字の由来や本来の意味という点では全くの別物。(日本語の円は圓の新字体)ではなぜこの二つの字が同じ通貨単位を表す漢字として使われるのか? それを理解するには貨幣の変遷と漢字の意味を考える必要がある。圓とは円形のものを表す漢字だ。中国の近代通貨制度初期に流通した貨幣は銀圓と呼ばれる円形の大型銀貨だった。そのためその単位として「圓」が使われたことは容易に理解できる。後に、銀圓に代わり長方形の紙幣が流通するようになった。圓本来の意味は失われたわけだが、単位として残ることになった。こうした中、同じ発音の「元」も使われるようになる。元は、元素や単元つまり”基本“を表す漢字だった。そのため通貨の基本単位という意味で、本来の意味の失われた圓に代わってこの字をあてたとしてもおかしくはなかった。圓も元も共にその時代の中で通貨単位を表すのに適切な漢字だった。そのため、今日ではこの二つが共に受け入れられており、どちらか一つに統一することはしていない。さらに別の角度からも圓が紙幣に使われる理由を推測できる。紙幣には「壹佰圆」と記されている。壹は一ではなく、佰も百ではない。書き足しなどにより別の文字に変えられることを防ぐためにあえて画数の多い複雑な字体が使われている。同じ理由で、元よりは圓の方が紙幣に使う文字としては適していることになる。まとめると、規範や歴史的背景だけでなく、慣習や使用目的を考えると紙幣に圓が使われるのは妥当だと言えそうだ。

東アジアの”圓“、世界のドル
お金1実は通貨単位として”圓“を使うのは中国だけではない。東アジアの各地では、形や発音は異なれど圓に由来する通貨単位が使われている。ご存じのとおり、日本の円は圓の新字体だし、台湾・香港・マカオでは現在でも貨幣に圓の字を用いている。韓国のウォン(원)はかつて漢字で圓と書かれていた。またモンゴルの通貨トゥグルグもその意味は圓だという。これらの通貨単位はスペインおよびその植民地であったメキシコから流入したメキシコドルなどの大型銀貨を銀圓と呼んだことが起源と考えられている。さらに、通貨の王者ドルの起源ともつながっている。ドルの起源はヨハヒムスターラー(Joachimsthaler)という銀貨の名前の短縮形で、後に大型銀貨を指してターラーと呼ぶようになった。圓もドルも大型銀貨が由来とは興味深い。

 

 

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