中国法律事情「動物による損害の賠償」高橋孝治

2016/07/25

生活をしていると、ケガをすることもあります。しかもそのケガの原因が人間ではない場合もあります。例えば、犬に咬まれるなど…。中国にも動物が原因による損害の賠償について規定した法律があります。いくつかの場合に分けてお話しましょう。
まず誰かに飼われている動物の場合です。飼われている動物によって損害が発生した場合は、飼い主もしくは管理人が賠償責任を負わなければならないとされています(民法通則第127条。侵権責任法第78条)。管理人とは、直接の飼い主ではないけれど、そのときに動物の管理に責任を負う者です。例えば、犬の散歩について誰かに頼んだとき実際に犬の散歩をさせていた人や、動物が病院に入っていたときの動物病院の担当者などです。ところで、飼われている動物によって損害を負っても相手が責任を負わなくていい場合があります。しかし、それは厄介なことに法律によってその内容が異なっているのです。民法通則第127条後段では「被害者の過失で損害が発生した場合、動物の飼い主もしくは管理人は責任を負わない。第三者の過失によって損害が発生した場合、第三者が民事責任を負担する」とあります。これに対して侵権責任法第127条後段は、「損害が被害者の故意または重過失によって引き起こされた場合、責任は負わないか軽減することができる」としています。故意や過失があるとは、つまり被害者側に非がある場合ということです。「犬」だと例えが難しいですが、「牛」の前で赤い布を見せて、ケガをした場合などは、動物が原因の損害に対して被害者側に非があると言えるでしょう。家畜による損害もこれらの条文が適用になるので、中国の農村などに行けば牛もおり、ありうる話です。しかし、単なる過失で免責されるのか、重大な過失で責任が軽減されるのかがハッキリしません。この場合、どちらも正解であり、「使う条文によって回答が変わることがあるのが中国法」と覚えておきましょう(なお、筆者の個人的見解では、民法通則の方が優先されると思います)。また、ここでいう「第三者の過失によって損害が発生した場合」ですが、例えば犬を散歩しているときに第三者が過失でとても大きな音を立て、それに驚いてパニックになった犬が他の人に咬みついた場合などが具体例としてあがるでしょう。飼い主でも被害者でもない第三者が原因の動物による損害です。この場合、最終責任は第三者が負いますが、被害者は第三者と飼い主、管理人の誰に対しても損害賠償を請求することができます。飼い主や管理人が損害賠償を支払った場合には、飼い主や管理人が第三者に賠償金額の求償を請求することができます(侵権責任法第83条)。
次に被害者側に過失や故意があっても損害賠償を請求できる場合があります。それは、安全措置を取っていない動物や飼うことが禁止されている危険な動物が原因で損害が発生した場合です。これは非常に大きく獰猛な犬に口輪をしていなかった場合や、ライオンなどの危険な動物を飼っていた場合などが該当します(侵権責任法第79条~第80条)。
また動物園の動物により損害を受けた場合も、動物園が動物の管理につき職責を果たしていたという証明ができた場合を除き、動物園から損害賠償を取ることができます(侵権責任法第81条)。さらに、棄てた動物や逃げた動物から損害を受けた場合には、元の飼い主や管理人が責任を負わなければならないとされています(侵権責任法第82条)。

※本記事の内容は筆者(高橋孝治)が講師を務めた「分かりやすい法律教室」(2014年11月28日北京にて実施・主催:北京日本人会婦人委員会)で受けた質問に対する回答の一部を再構成したものです。

〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉高橋孝治
中国法ライター、北京和僑会「法律・労務・税務研究会」講師。
中国法の研究を志し、都内社労士事務所を退職し渡中。現在、中国政法大学 博士課程で中国法研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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